毛髪の科学51 筋トレで薄毛になるというのは本当か?

運動をしたくない人が言い訳として口にすることに「薄毛になるから」「ハゲるから」ということがあります。運動をすると筋肉がついて、余計な脂肪が減り、生活習慣病の予防にもつながるというメリットはあるものの、薄毛やハゲになりたくないからと運動をしたがらない人もいます。

これは単に運動嫌い、体を動かすのが面倒というのではなくて、迷信のように言われている「筋トレはハゲる」というのが関係しているようです。

筋肉は男性ホルモンとの関係が強くて、男性ホルモンが多く分泌されることによって筋肉が増えていきます。男性が女性に比べて筋肉量が多いのは男性ホルモンの違いによるものです。筋肉運動をすると男性ホルモンの分泌量は増えていきます。

これは筋肉が刺激されると筋繊維と呼ばれる筋肉の細胞が傷ついて、これを修復するために筋繊維の周りにサテライト細胞が増えていきます。そして、サテライト細胞が筋繊維に取り込まれて、筋肉が太くなり、強くなっていきます。

そのときに男性ホルモンが必要になるので、運動後には男性ホルモンの分泌が増えていくのです。

男性の薄毛の原因は男性ホルモンだと聞かされると、筋肉運動をしなければ薄毛になりにくいと思ってしまうかもしれませんが、筋肉を増やす男性ホルモンと薄毛に関係する男性ホルモンは違うタイプのものです。大きな分類では男性ホルモンであっても、役割によって種類が分かれています。

一般に男性ホルモンと呼ばれているのはテストステロンで、このほかにジヒドロテストステロン、デヒドロエピアンドステロンなどがあります。テストステロンやステロンという文字が共通しているので勘違いされがちですが、役割が異なることから、まったく違うものと考えてもよいのです。

薄毛に関係する男性ホルモンは、ジヒドロテストステロンで一般にはDHTという略称で呼ばれています。これはテストステロンと5αリダクターゼという還元酵素が結合することで発生したものです。

頭皮にはホルモン受容体があって、これとジヒドロテストステロンが結びつくと脱毛因子のTGF−βが増えていきます。その結果として毛髪が抜けやすくなり、次の発毛までの期間が長くなって、薄毛になっていきます。

テストステロンは筋肉強化のほかにも血糖値やコレステロール値の降下などプラスの働きがあることから善玉男性ホルモンと考えられていますが、ジヒドロテストステロンのほうは薄毛の原因だけでなく前立腺肥大のリスクを高めることもあって悪玉男性ホルモンと呼ばれることもあります。

筋肉を鍛えることによってテストステロンが増えていっても、それと並行してジヒドロテストステロンが増えるわけではないので、筋トレが薄毛に直接的に影響しているわけではないということです。

筋トレは薄毛の原因ではない、毛髪によくないというのは間違った考えだということを説明しましたが、それに続いて伝えたいのは、筋トレは毛髪の成長にプラスになるということです。

このような情報を伝えると、筋トレをするほど毛髪が元気になると思い込んで、頑張ってトレーニングをする人も出てきます。しかし、何事も“過ぎたるは及ばざるが如し”で、毛髪の状態をよくする効果があるのは“適度な筋トレ”です。

運動をすると血液の流れがよくなることは体が温まることでも確認できます。体が温まるのは、温かな血液が次々と送られてきて、体温の放熱よりも温かな血液による加熱のほうが優っているからです。逆に冷えるというのは、放熱に対して加熱が間に合っていない状態です。

歩くだけでも全身運動であるので血流は盛んになりますが、筋肉が強く刺激される筋トレでは筋肉の収縮が大きくなり、ポンプ作用で勢いよく多くの血液が送り出されるようになります。

毛髪は毛細血管の末端にあることから、血液が届きにくいところで、そこに血液を多く送り込んで成長を促進するために筋トレが役立つということです。

もう一つは成長ホルモンを増やす効果です。成長ホルモンというと筋肉を強くしたり、骨を伸ばすホルモンという印象があるかもしれませんが、全身の細胞の代謝を高めるために必要で、それぞれの毛髪の毛根の細胞も成長ホルモンの影響を受けています。

毛髪の成分の大部分はタンパク質です。成長ホルモンはタンパク質を使って成長するのに必要なものであるので、筋肉も毛髪も同じような結果、つまり筋肉が強くなれば毛髪も強く丈夫に伸びていくということです。

成長ホルモンは運動をすることで血液中に増えていくのですが、運動の強度が高まるほど分泌量が増えていきます。これは間違いがないことですが、激しい運動をすると毛髪の成長にとってマイナスのことが起こります。それは活性酸素の発生です。

活性酸素は全身の細胞の中でエネルギーが作られるときに、不完全燃焼状態によって発生する反応が強すぎる酸素のことです。活性酸素は吸い込んだ酸素のうち2〜3%が変化するとされていて、多く発生すると細胞を酸化させていきます。活性酸素の酸化というと皮膚の老化がよく知られていますが、毛根の細胞も酸化させるようになります。

筋トレによって体が温まってきたくらいのところで止めておけば活性酸素が大量に増えることはありません。過剰な筋トレをして、自毛植毛のために必要な毛髪を傷めるようなことになっては仕方がないので、無理なく続けられる筋トレを目指すのがよいということです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕