“体質”というのは便利な用語で、身体について何か困ったこと、解明されないことがあったときには、体質のせいにしてスルーされることがあります。
これは薄毛の対応についても言えることで、薄毛の原因とされる頭皮の血流低下や毛髪の太さ、伸びの早さなどは、食事や睡眠時間、頭皮ケアなど同じ生活をしていても同じ結果ということはありません。
努力の成果が現れやすい人もいれば、そうではない人もいるわけで、その原因を科学的に解明することなしに、単純に「体質のせいですね」と片付けられることがあります。
体質は、遺伝的素因と環境的素因の相互作用によって形成される、生まれながらの性質だとされています。遺伝の影響が大きいのですが、環境的な影響が長く続くことによって、それが遺伝に影響を与えることもあります。例えば、寒いところで代々暮らしてきた民族は身体が温まりやすいようにエネルギー代謝が盛んになり、温かな血液が早く全身の血管に送られてくるようになることから、末端の頭皮の血流もよくなっています。
このことからすると、寒い地域のヨーロッッパ北部などは薄毛が少ない傾向にあるのかというと、“西高東低”の状況となっています。気圧配置のことではなくて、西側のヨーロッパは薄毛傾向が高くて、次がアメリカ大陸、アジアは低い傾向があるのです。
薄毛の割合は、調査によっても違いはあるものの、イギリス、フランス、ドイツは39〜41%で、アメリカは39%となっています。アジアは中国が19%、韓国が22%となっていますが、日本は27%です。
今の中国人の多くは北方民族の子孫で、韓国は寒い地域なのに、それに比べると暖かい日本で薄毛率が高いというのは、環境だけでなく遺伝が影響しているという一つの証拠ともいえます。
薄毛の原因というとAGA(男性型脱毛症)の要因となっている男性ホルモンの量が指摘されます。男性ホルモンは全体的な体毛の成長は進めるものの、毛髪に対してだけは逆の作用をしています。
つまり、体毛が濃い人ほど毛髪が薄くなる傾向があるということで、体毛と毛髪では生えてくるメカニズムが少し違っています。体毛は男性ホルモンの分泌量が増えることによって単純に成長が早まり、濃くなっていきます。それに対して毛髪は男性ホルモンによって成長が抑えられます。
AGAによる薄毛に関係する男性ホルモンはDHT(ジヒドロテストステロン)で、テストステロンと5αリダクターゼという還元酵素が結合するとDHTとなります。DHTによって脱毛因子のTGT–βは増加して、毛母細胞の毛乳頭細胞にシグナルが出されます。
そのシグナルというのは毛髪サイクルの退行期を進めるためのもので、これによって太い毛髪に成長していく前に抜け毛が増えていくという仕組みになっています。
5αリダクターゼの活性度は遺伝の影響を受けやすくて、父親や祖父が薄毛であった場合だけではなくて、母方の家族が薄毛であったときにも活性度が高くなる可能性があります。この遺伝は女性も受け継いでいるのですが、女性は男性ホルモンが少ないことから薄毛の特性が現れにくくなっています。
薄毛でなかったといっても遺伝によって薄毛体質は受け継いでいるので、その子どもや孫である自分が薄毛の体質が受け継いでいるということはあるのです。
以前のように兄弟姉妹が多ければ、母親の兄弟、祖母の兄弟の毛髪の状態を見て、遺伝を感じることもできたのですが、今のように兄弟姉妹が少なく、一人っ子同士の結婚が多くなっている時代には、急に自分だけが薄毛になって驚かされることもあります。
遺伝というのは必ず子孫に影響を与えるとは限らないもので、薄毛の体質を受け継いだ両親の子どもだといっても薄毛にならないこともあります。できることなら、それを願いたいところですが、そうなると気になってくるのは発現率です。
AGAではDHTが脱毛因子のTGT–βを増やしていくわけですが、そのときには関係しているのが男性ホルモンレセプターという受容体です。男性ホルモンレセプターは男性ホルモンに反応するのですが、感受性の強さは母方の遺伝が大きく関係していると指摘されています。
薄毛に関わる遺伝情報はX染色体が引き継いでいます。染色体は男性がXY、女性がXXとなっています。男性は父親からY染色体、母親からX染色体を引き継いでいます。そのために母親の親戚の男性の毛髪の状態は気にして観察して、リスクが高そうであれば頭皮ケアは積極的に行うべきだということがわかります。
自分の子どもに薄毛の体質を受け継がさないようにするためには、妻の親戚もしくは妻となる候補の女性の親戚の毛髪の状態を気にすべきということになります。
では、女性の親戚の毛髪の状態だけをチェックすればよいのかというと、5αリダクターゼの活性度は男性でも引き継がれるので、そちらのチェックも必要になります。
とはいえ、薄毛の確率としては母方の祖父が薄毛の場合には75%、母方の祖父と曽祖父が薄毛であった場合には90%の発現率だとされています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕