腸内には約100種類、100兆個以上の腸内細菌が棲息するという話は、今でも当たり前のように語られています。WEBサイトを閲覧して回っていると、この情報は今でも数多く紹介されています。しかし、300種類、300兆個という説が登場し、今では500種類、1000兆個という発表もされています。こんなにも腸内細菌の数が増えた、という話ではなくて、研究によって実態が明らかになってきたということですが、これだけの種類の腸内細菌が誰の腸の中にも存在しているということではありません。
“腸内細菌の多様性”ということが言われます。数多くの種類の腸内細菌が存在していることを指していますが、腸内細菌の種類は人によって大きく異なります。腸内細菌の多様性がある人は太りにくいということで、実は多様性こそがダイエットの決め手という話が広がり、やせている人の便を太っている人に移植するダイエット法までが登場しています。
腸内細菌の多様性のためには何をすればよいのかが気になるところですが、そこで多様性がある人の食べているものが調べられ、多様性がない人、つまり腸内細菌の種類が少ない人が食べているものとの差が注目されています。多様性がある人は、多様性がない人に比べて魚類、野菜、果物、豆類、イモ類、キノコ類、海藻類を多く食べていることがわかりました。要は、食事の洋風化によって多く食べられるようになった肉類、脂肪が多い食事は食べている食品の数が少なくなる傾向があり、多くの種類の食品を食べることが腸内細菌を増やすということです。
腸内細菌はエサに当たる栄養源を摂ってエネルギーを作り出して活動して、増殖もしています。一般には悪玉菌は動物性たんぱく質、脂肪が主な栄養源になり、洋食は悪玉菌を増やしやすくなっています。善玉菌は糖質、食物繊維が主な栄養源となっています。和食を食べる機会を増やすようにすることで善玉菌を増やすことができるということですが、善玉菌といっても100種類なのか1000種類なのかはわからないとしても種類が多いことには違いがないわけで、それぞれの善玉菌が特に好む栄養源があります。ということは普通に考えれば、多くの種類の食品を摂ることが多くの善玉菌を増やすことになるわけです。善玉菌は腸内で発酵を進めるので、腸内での分解も進め、これが体内の栄養成分となっていきます。
江戸時代の健康指南書の『養生訓』で貝原益軒(本草学者・儒学者)は「御加数」という言葉を使って、おかずは数を加えること、つまり多くの種類の食品を食べることをすすめています。これは多くの種類の栄養素を摂ることを意味すると考えられていましたが、腸内細菌の多様性を考えると、腸を元気にして、腸から健康になっていくことを示していると考えることもできるというわけです。
多様性といっても、悪玉菌が好むような動物性たんぱく質と脂肪は、種類を増やせばよいということではなくて、悪玉菌は腐敗によって有害物質を発生させるので、多くの種類を食べれば何でもよいということではないのです。