無症候性アルツハイマー病はよい状態なのか

未病の話をしたときに、東洋医学の未病は自覚症状があるのに検査をしても特に原因がみられないものを指すと説明しました。しかし、西洋医学の最新の検査を実施することによって、詳細が判明するようになると、それなりの原因があることわかってきました。その検査の一つにMRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像法)があります。脳や内臓を画像化して詳細に見ることができるので、これまで見逃してきた疾患もキャッチすることができます。
MRI検査によって“隠れ脳梗塞”が発見されるようになり、この状態の人は3人に1人は数年以内に脳梗塞になることが知られるようになりました。“数年”というのは便利な言葉で、数十年ではなく数年ということで10年以下のことです。一般的には3〜4年という印象があるものの、実際にはよくわからないという意味でも使われています。
隠れ脳梗塞は“無症候性脳梗塞”とも呼ばれます。症状がみられないということですが、身体が疲れる、目が疲れる、眠い、めまいがする、ふらつく、頭が痛い、冷える、痺れる、感覚が鈍いといった日常的にも起こることがあり、これが症候状態と感じて検査をすれば発見ができるのでしょうが、無症候と思ってしまうところで発見を遅らせています。
もう一つ無症候として知られるのが“無症候性アルツハイマー病”です。MRIで検査をするとアルツハイマー病の状態になっているのに、アルツハイマー病の特徴である記憶、思考、認知、判断力などの症状がみられないもので、MRI検査をしなければ気づかずに過ごしていたというものです。
無症候性脳梗塞は自覚症状がないのに病変が起こっているもので、これは東洋医学的未病状態であっても、放っておけない状態です。これに対して無症候性アルツハイマー病は検査をして病変が明らかになっているのに自覚症状がない西洋医学的未病状態と同じですが、脳の機能には大きな異常が出ていないので、これは悪い状態とは言えないものです。
無症候性アルツハイマー病を、わざわざ目指すことはないわけですが、アルツハイマーの状態になっても生活に支障がないことから、病気ではなく、むしろ健康と考えることができます。どうしたら、このような状態になれるのかということで、いろいろな調査が行われています。その調査の成果の一つが「ライフスペースを広げること」です。ライフスペースというのは日常的な活動範囲のことで、これが広いということは積極的に出歩き、多くの人と関わり、脳に刺激を受けているということが言えます。
歩かないと歩けなくなる、頭を使わないと使えなくなる、とよく言われます。脳は生きていくのに必要な反応をしようとしているので、出歩く機会が減ると脳も多くの反応をしなくなるので衰えていくようになります。刺激を受けて反応しなければならなくなると、脳で機能が失われていない部分をフルに使うようになり、その部分でアルツハイマー病によって使われていないところをカバーするようになると考えられています。