老いの脳力3 認知機能の回復

高齢者の脳力というテーマを掲げたときに、避けて通ることができないのは認知症であり、その数は研究に基礎情報となります。

認知症患者は443万人(2022年統計)、その予備群である軽度認知障害患者は400万人と推定されており、65歳以上の4人に1人の割合となっていました。

認知症と軽度認知障害の患者は高齢化が進む我が国においては増え続ける一方で、2030年には認知症患者は523万人、軽度認知障害は593万人を超えると推定されています。2030年の65歳以上の推定人口は2258万人であり、認知症患者と軽度認知障害患者を合わせた1116万人は高齢者の2人に1人にもなります。

軽度認知障害(MCI:Mind Cognitive Impairment)は厚生労働省研究班によって認知症の前段階として位置づけられ、従来の認知症の診断基準に示された項目を満たすようになった段階では、もはや早期とはいえないと指摘されています。

軽度認知障害と認知症は特定の疾患ではなく、認知機能低下症状におけるステージや状態を示すもので、潜在的な疾病、疾患や身体状態が引き金になるとされています。

軽度認知障害のリスクとしては、加齢にプラスして、脳卒中(隠れ脳梗塞を含む)、心疾患(心筋梗塞など)、糖尿病、脂質異常症(高中性脂肪血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症)、高血圧、メタボリックシンドローム、肥満、喫煙歴、アルコール・薬物の影響、不健康な食生活、心身エクササイズの欠如、ストレスや不安、うつ病、社会的孤立などがあげられています。

そのため、厚生労働省による新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)では認知機能低下のリスク要因の疾病・疾患を早期に特定し、早期に適切な介入を行うことが推奨されています。

しかし、軽度認知障害と診断されても、それを完全するための的確な治療薬は存在していません。

認知症の治療薬は複数あって、研究が急速に進んでいることに比べると、ほとんど有効な治療薬がないのと同じ状態で、軽度認知障害と診断されても、食事での改善としてバランスの取れた栄養補給、運動での改善として適度な運動習慣、そして充分な休養としての休息と睡眠の確保が指示されるのがほとんどです。

こうした指導によって軽度認知障害からの改善がみられる人は約30%で、約20%が軽度認知障害のままで維持され、1年で10〜15%が認知症になり、5年で約50%が認知症に進行しています。

このような状態を改善するためには、要因の一つとなっている生活習慣病の改善が重要となりますが、それに加えて生活習慣病対策の栄養と運動、認知機能の向上につながる運動や生活改善も、有効な治療薬がない段階では積極的に取り組むべきこととなっています。

軽度認知障害の状態でも回復することは可能です。認知機能は全体的に低下するものではなく、凹凸があることから、高めに保たれている機能(老いの脳力)を活かす活動こそが、超高齢社会には重要な取り組みとなります。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕