老いの脳力4 有酸素運動による脳力向上

歩くことは有酸素運動であり、歩くほど身体的にも脳機能の向上にもよいと言われています。歩く距離は高齢になると短くなる傾向があり、歩数も少なくなります。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(令和5年版)を見ても、男女ともに40歳代が歩数のピークで、そこからは年齢を重ねるほど歩数は減っていきます。

高齢になるほど脳の機能が低下してくるので、その機能を保つためには歩いて、酸素を多く取り入れて、脳にも酸素を多く届けるようにしたいところですが、その望みは残念ながら現実とは離れていっています。

脳に酸素が多く送られると、脳細胞でエネルギー源のブドウ糖がエネルギー化されるので、認知機能の向上が期待されます。実際に有酸素運動のウォーキングによって全身の血流が促進され、脳の血流が高まることから認知機能の向上に寄与することが確認されています。

アルツハイマー病が発症する危険因子で最も影響度が高いのは「身体的不活動」、いわゆる運動不足で、うつや喫煙、高血圧、肥満を大きく上回っています。

運動と健康寿命延伸の研究として「中之条研究」の成果が基本データとして取り上げられています。この研究は群馬県中之条町で実施された65歳以上の全住民である5000人(重度の認知症や寝たきりの人を除く)を対象に2000年から10年以上にわたって実施された健康研究で、その後追い研究は今も続けられています。

この研究では1日の平均歩行数と、そのうちの中強度の活動時間によって、予防できる病気が示されています。

歩行数と中強度活動時間が増すごとに有病率が低くなることが判明していますが、研究の結果、歩数としては1日に8000歩以上歩くこと、そのうち中強度の歩行を20分間以上取り入れることが提言されています。

中強度の歩行は、会話が続けられる程度の早歩きを指しています。また、12000歩(うち中強度の活動が40分)以上の運動は健康を害する可能性があることを示しています。歩きすぎは、よくないということです。

中之条研究では、1日に7000歩以上、中強度活動時間15分以上のグループでは認知症がいなかったと報告されています。

海外の研究では、認知症の予防には脳トレーニングよりもウォーキングを中心とした運動のほうが効果があるとの研究成果があります。

厚生労働省の『介護予防マニュアル』では、ウォーキングは運動器の機能向上の項目ではなく、認知機能低下予防の項目に採用され、認知機能低下防止・支援マニュアルとして一次予防、二次予防ともにウォーキングを推奨しています。

また、国立長寿医療研究センターの『認知症予防マニュアル』では運動による認知症予防を中心として、有酸素運動によるウォーキングをプログラム化してすすめられています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕