京都の言い回し9 一人だけと思っていたのに……

やってくるのは一人だけだと聞いていたのに、もう一人が加わると、迎える側に迷惑をかけることがあります。料理を用意していて、予定していた人数よりも一人でも増えてしまうと、準備ができていないので断るということは、伝統を重んじる老舗ではあることです。

多くの人が訪れる店で、同じ料理を出すというのなら、また作り立てを出すのでなければ、一人どころか何人が急に来ても対応できないということはありません。

ところが、同じような献立であっても、それぞれに工夫をしていて、予定した数を超えることは対応が不可能ということもあります。

そのような店で断られたとしても腹を立てるのは筋違いで、そこが伝統を重んじる地域、中でも京都では了解ごと(お約束)ということです。

そのような店でなくても、京都では「お一人ですか?」と聞かれることがあります。それは一人であったら、ちゃんと扉を閉めて入ってくれという意思表示の言葉です。

一人ではなくて複数で店に入ったときに言われるのは、「後から誰か来はりますの?」で、「これも扉を閉めろ!」という意味が込められています。
一人だと思っていたら実際は一人ではなかった、複数の客の場合は初めに入った人のほかに後から入ってくるということもあるので、「扉を閉めて」と言った直後に続いて入ってくる人がいたら気まずいことにもなります。

そういった保険というか、心づかいがある(?)言葉が、それに慣れていない人には“いけず”に感じてしまうことにもなっているのです。

「お一人ですか?」と聞かれて、実際に一人であって、ちゃんと扉も閉めたというなら、いけずの感覚で言われているわけではないと承知して、したり顔で「はい」と答えるようにしています。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕