日々修行157 地域のお酒の魅力

東京で暮らしていた44年の間に幸いにして全国を回ることができました。それは多彩な仕事をさせてもらっていたおかげで、仕事で訪れて、後に観光で行ったところもありました。

全国各地には、それぞれの伝統的な味があり、季節によって味わえるものに違いはあるのですが、日本酒の味は地域によって季節による変化があまりないので、行った先々で日本酒を味わうのが常でした。

ホテルや有名飲食店で出される日本酒が地元の支持を受けているものとは限らないこともあって、「日本酒は一期一会」の感覚をもって、しっかりと前調べをして、これと決めた1本を飲めるようにしていました。

酒のペンクラブの会員には、各地の日本酒に詳しい方もいて、単に趣味の世界ではなくて、酒の買い付けが本業のデパートのバイヤーからは話だけでなく、実際に飲み比べをして、“今のタイミングの1本”を決めてから出かけていました。

地方の蔵元でも随分とよい日本酒が作れるようになり、地酒がブームになりました。地酒だけのつもりであったのに、地ビール、地ワイン、地ウイスキーもあって、思わぬ出会いもあり、飲み過ぎることも多々ありました。

地方に行ってみて、驚いたこともありました。最も印象的だったのは“地元では売っていない酒”があることです。

最高峰の日本酒を作り上げて、それに見合う価格をつけたら地元では売れない、買ってもらえるのは都市部だけというので、東京に戻ってから取り寄せて飲むこともありました。

そのときには、地元の食品を同時に取り寄せることができないこともあったので、東京にある地方物産館で“おかず”(つまみやアテというよりも、しっかりと食べられるもの)を入手して楽しんでいました。これは前回(日々修行156)書いた酒のペンクラブでの物産館巡りが役に立ちました。

地域の伝統料理が酒の味を決めて、酒の味が新たな料理の味を決めると言われることを身をもって体験する一つの機会となりました。日本酒だけを飲んだら、なんと甘いのか、なんと辛いのかというものも、その地域の“おかず”と一緒だと納得できることも多々ありました。

東京には東京の物産館がない(当時は埼玉県と神奈川県も)ので、東京の日本酒も極めておこうということで、取材の機会を作り、都内の蔵元で飲酒と健康の講演をさせてもらったこともありました。

そのときには、酒をすすめる酒のペンクラブと、酒を控えるように言うことが多い臨床栄養の関係者という両方の立場の使い分けが役立ったものです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕