1989年(平成元年)に当時の厚生省(2001年から厚生労働省)と日本歯科医師会によって8020(はちまるにいまる)運動が提唱されました。
「生涯にわたって自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との願いを込めて、「80歳になっても20本以上、自分の歯を保とう」と数値目標を掲げた運動が始まりました。
「80」という数字は、当時の平均寿命(平成元年簡易生命表)は男性が75.9歳、女性が81.8歳で、男女合わせた平均寿命に相当する年齢だったからです。現在(2023年)では平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.14歳となりました。
80がゴールであった時代から今では途中経過になり、より健康的な高齢期を過ごすための運動へと変化してきました。
「20」という数字は、満足できる食生活が過ごせるために必要な歯の数を意味しています。
歯の本数と咀嚼能力に関する調査では、32本の歯(切歯8本、犬歯4本、臼歯20本)のうち20本以上の歯が残っていれば、どの年齢であっても硬い食品を充分に噛むことができることが科学的に明らかにされています。
8020運動が始まった当初は8020を達成している後期高齢者は10%にも満たなかったものの、現在では半数を超えています。
噛むことが大切であることを示す報告として、高齢者で残っている歯が少なくなるほど認知症リスクが高いという調査結果があります。
歯とあごの骨を結びつけている歯根膜はコラーゲン線維によって噛んだ感覚が脳に刺激を与え、脳を活性化させているため、噛まなくなったり噛めなくなると脳への刺激が減り、脳の働きも鈍くなると考えられています。8020運動は認知症予防のためでもあるのです。
では、20本の歯を残していれば80歳までは生きることができるのかというと、そういう話ではないのですが、これは健康関連の講習会や噛むことを伝える機会に、よく出てくる質問です。
虫歯にならないように、歯周病になって歯が抜けてしまわないように歯のケアをすればよいということではなくて、歯が多く残っているということは、それに相応しい食事をして、必要な栄養素も補われているということです。
また、歯が多くて、食べたいものを食べられるということは外出して飲食をする機会も増えて、出歩いて足腰が鍛えられるだけでなく、外出によって与えられる刺激、一緒に話をする人との精神的なつながりも健康で長生きするための条件と考えられています。
歯の状態は健康のバロメーターであり、多くの歯があることをプラスに変えていくことができるという発想ですが、これは自分が古希になって歯の健康への不安が高まっていく年齢だからこそ感じることなのかもしれません。
そうではないことを、ずっと願ってはいたのですが。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕