卵のコレステロールの当たり前の話

健康をテーマにしたバラエティー番組で卵(鶏卵)を取り上げていました。初めに取り上げたのはコレステロールです。卵にはコレステロールが多く含まれていますが、コメントをしていた長寿研究に詳しい医師が、卵のコレステロールはLDLコレステロール値に影響しないというデータを示して、これまでの常識は非常識というような言いようとなっていました。これまでというのは、いつのことかというと最近の話ではなく、私たちが健康情報誌を通じて情報提供し始めたのは15年も前のことです。番組で取り上げていたデータも、私たちが使っていたものと同じものでした。
血液中には、悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLコレステロールと、善玉コレステロールとも呼ばれるHDLコレステロールがあり、これらによって運ばれているのが血液中のコレステロールということになりますが、そのうち食事が影響しているのは約20%となっています。残りの約80%は肝臓で合成されています。その合成量は、食事によってコレステロールが多く入ってくると、肝臓が調整して減らしていくので、食事由来のコレステロール摂取はLDLコレステロール値には影響しないということです。
私たちにしてみれば、あまりに当たり前のことだったので、健康の話をする機会に、「何を古い話をしているのか」と言われてもいけないと思って、わざと避けてきたところがあります。ところが、別の局のディレクターと話をしていたら、「まだ知らない視聴者もいるので、もっと出していくべきでは」と言われました。
確かに、コレステロールが多く含まれた卵を食べることでLDLコレステロール値が上昇すると思って、卵を食べないか食べる回数を減らしている人がいたら、良質なたんぱく質が不足することにもなります。その番組ではアミノ酸のバランスがよい良質なたんぱく質だと説明していましたが、良質なたんぱく質は卵に限ったことではありません。肉、魚、大豆も良質なたんぱく質です。
卵は栄養バランスがよい完全栄養食品という話も出ていましたが、卵だけでひよこが生まれるのだから、すべての栄養が含まれているわけではありません。バランスが取れているのはアミノ酸や脂肪酸などで、ビタミンCも食物繊維も含まれていません。以前に卵ダイエットが流行したときに完全栄養食品という誤った情報が広まってしまいましたが、卵だけを食べていればよいということではないのです。
健康番組のテーマは、すべてとは言いませんが、何か商品と結びつく情報が入れ込まれていることが多く、この番組でもテーマは卵であったはずなのに、鶏肉の成分についても後半で紹介されていました。卵のコリンはリン脂質の構成成分で、脳機能を高めて認知症予防につながるという話に関連づけて、鶏の胸肉に多く含まれるイミダゾールジペプチドには認知症予防効果があり、さらに抗酸化作用から脳の疲労回復に役立つという説明がされていました。
イミダゾールジペプチドはイミダゾールを含むアミノ酸が結合したペプチドで、動物の肉に含まれていますが、羽を動かす渡り鳥の胸肉に特に多く含まれているのは事実です。鶏は今では飛ばない鳥ですが、飛ぶ鳥、中でも長距離を飛び続ける渡り鳥には、それに耐えるための成分としてイミダゾールジペプチドが蓄積されています。今は飛ばなくても、鶏の胸肉に蓄積されているという説明がされています。
認知症予防についての研究では、脳老化の抑制効果が確認され、3か月の継続摂取で脳老化予防作用が確認されました。このときに使われたのは鶏肉ではなく、鶏の胸肉を原材料としたイミダゾールジペプチドの顆粒、つまり健康食品の成分と同様のものでした。認知症予防だけでなく、うつ病の改善、脳細胞の萎縮の抑制も続く研究で確認されました。
認知症予防には卵がよいのか、鶏肉がよいのかということですが、両方ともによいというのが結論ではないでしょうか。