ダイエット成功は身体のメカニズムを知ることから始まる

やせるか太るかは食事量と運動量のバランスの結果だとされています。食事量が少なくて運動量が多ければやせるし、食事量が多くて運動量が少なければ太るというように考えられています。ダイエットに必要な生理学のメカニズムはほぼ確認されています。そのメカニズムどおりに食事も運動も実施すればやせることも逆に太りたいと希望する人の願いをかなえることもできるはずです。しかし、実際にはダイエットができない、やってみたものの続かないという人は少なくありません。
確認されているメカニズムは、どのようなものなのかということですが、私たちが代謝生理学の研究に取り組み始めた20年ほど前は、例えば運動をしてダイエットをするとリバウンドしにくいものの、運動なしで食事を減らしただけのダイエットではリバウンドしやすいということはわかっていても詳細のメカニズムまでは充分に理解はされていませんでした。しかし、ちょうどテレビ番組でダイエットが盛んにテーマとして取り上げられていたときだったので、これまでの実績を例示して、「これさえすればやせられる」という表現が平気でされていました。
なぜかはわからなくても、結果としてダイエットが成功したのだから、これは正しいということで済んでいましたが、エビデンス(科学的根拠)の時代になると、なぜがわからないと始める気にもならず、始めたとしても続かないということが増えてきました。食事量が増えると太るのは、1日に必要なエネルギー量を超えると、その分の糖質や脂質を肝臓で脂肪に合成して、これが脂肪細胞に蓄積されるからです。このメカニズムがわかると蓄積される脂肪を増やさないように食べる量を減らすか、蓄積されないように肝臓での合成量を減らすか、蓄積された脂肪を減らすかという選択肢の中から選ぶこととなります。
二番目の肝臓での合成量を減らすというのは、なかなか難しいことです。というのは、脂肪は重要なエネルギー源で、もしも何も食べられない状態になったときには、この脂肪が生き延びるためのエネルギー源になるので、少しでも余ったものは脂肪に合成するという仕組みが身体の中に備わっているからです。となると、やはり食事を減らすか、蓄積された脂肪を減らすかということになるわけですが、この脂肪は重要なものなので簡単な運動くらいでは減らないようになっています。
例えば、脂肪細胞の中に蓄積されている1kgの体脂肪は約7200kcalのエネルギー量があります。男性の1日の食事のエネルギー量は約2400kcalとされるので、3日分の食事を減らさないといけないことになります。42.195kmのフルマラソンのエネルギー消費量は約2400kcalとされるので、毎日1回、マラソンをしていれば3日で1kgの体脂肪が減らせることになります。
それは無理だと考えるか、チャレンジ可能と考えるかは、脂肪の燃焼のメカニズムが理解できているかどうかにかかっています。そのメカニズムですが、脂肪が燃焼するのは全身の細胞にあるミトコンドリアのTCA回路で、この回路で酸素を用いて脂肪がエネルギーとして変化します。燃焼のためには酸素が必要で、ミトコンドリアは筋肉に多くあるので筋肉を動かす運動が必要になります。ただ、食事を減らしただけでは脂肪は減りにくく、運動も取り入れることで脂肪が減っていくということです。