歩くと脳によいのは血流促進だけか

歩くことと脳機能は、ともに健康番組や雑誌の大きなテーマとなっています。そして、歩くと脳の血流がよくなって、脳に運ばれる酸素の量が増えることから、ウォーキングは今では足腰の健康、血圧や血糖値、中性脂肪値の安定といったことよりも、認知症予防を目的として実施されることが多くなっています。
生活習慣病を引き起こす要因となっている血圧、血糖値、中性脂肪値はウォーキングなどの運動だけでなく、食事によっても低下させられることから、身体を動かすのは面倒だから食べる量を減らすことだけで済まそうとする人もいます。しかし、脳を刺激して認知症を予防しようとなると、食事だけ、頭を使うようにするといったことだけでは対応しにくく、最も効果があるウォーキングをしないわけにはいかなくなります。
厚生労働省の『介護予防マニュアル』ではウォーキングをすすめていますが、それは足腰のトレーニングや心肺機能の向上、脳血管に悪影響を与える血圧、血糖、中性脂肪などの低下ということではなく、認知機能の向上、つまり認知症予防のために実施するものとして紹介されています。それはよいとして、なぜ歩くと脳によいのかという理由となると、今は血流の促進によって脳に送られる酸素の量が増えることが第一にあげられています。しかし、それだけが要因ではありません。
そもそも血流がよくなって脳に運ばれていくものは何かということですが、酸素、三大栄養素(糖質、脂質、たんぱく質)、ビタミン、ミネラルなどのうち脳機能に深く関係しているのは酸素です。酸素を多く送ることによって脳細胞が取り込んだエネルギー源が燃焼します。脳以外の細胞は三大栄養素の糖質の中でもブドウ糖、脂質の脂肪酸、たんぱく質を構成するアミノ酸です。脳細胞だけは他とは違っていて、ブドウ糖が唯一のエネルギー源となっています。
このブドウ糖が細胞のミトコンドリアの中で酸素を使ってエネルギー代謝を行っていますが、ブドウ糖はミトコンドリアで燃焼する形のアセチルCoAに変化します。これをミトコンドリアに取り込むために必要となるのがα‐リポ酸です。α‐リポ酸というとダイエットのためのサプリメント、デトックスのためのサプリメントの成分として知られていますが、本来の作用を考えるとダイエットというのはブドウ糖を変化させて燃焼させたことによるエネルギー源の減少となります。血液中のブドウ糖が多いと血糖値が上昇して、これにつれて膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。これによって肝臓で合成される脂肪酸が増えて、脂肪細胞にたまっていく中性脂肪が増えていきます。
脳細胞がブドウ糖を取り込んで使った結果として作り出されたエネルギーは、脳細胞を働かせるために使われます。ブドウ糖は酸素を取り込むことによって燃焼が進んで多くのエネルギーが作り出されることになるわけですが、その作用が最も高いのは有酸素運動のウォーキングです。歩くと脳によい、認知機能を高めるというのは、こういった働きが影響しているわけです。