インスリン抵抗性の改善にたんぱく質制限?

全国紙の記者から「インスリン抵抗性を改善するには、たんぱく質制限が必要なのですか?」との質問を受けました。なぜ、こんな質問をしてきたのかというと、調剤薬局でもらった糖尿病の食事療法のパンフレットに、そのようなことが書かれていたからとのことです。それをデータで送付してもらったところ、製薬会社が発行しているもので、その中に「たんぱく質や塩分はインスリン抵抗性に悪影響を与える」と書かれていました。インスリン抵抗性はインスリンが分泌されているのに、それを受ける細胞の反応がよくないために血糖値が上昇しやすくなることを指していて、日本人はインスリン抵抗性によって糖尿病になることが多いと指摘されています。
インスリン抵抗性は過食や運動不足が原因であり、肥満によって脂肪細胞から分泌される生理活性物質のアディポネクチンによって引き起こされることが知られています。糖尿病になると血管がもろくなっていくことから血管の健康を守るために、その材料となるたんぱく質を摂ることが必要になります。また、糖尿病の人は筋肉が衰えやすく、筋肉を増やすことによって消費エネルギー量を増やすことができることから、たんぱく質の摂取は重要であるとの食事指導が行われます。高齢者の場合には糖尿病だけでなく、たんぱく質を確保することによって全身の健康に役立つということで、「高齢者は肉を食べろ」と言われるようになっています。
肉には脂肪も含まれるので、脂肪が少ない肉の選び方、脂肪を減らす調理法や脂肪の資料量が少ない調理法が紹介されています。それだけでは充分ではないという人には、脂肪の吸収を阻害する難消化性デキストリンやシクロデキストリン(環状オリゴ糖)、脂肪酸の燃焼を進める作用があるL‐カルニチンの摂取などもすすめられています。
糖尿病の人のインスリン抵抗性とたんぱく質摂取の関係性については、「高たんぱく質の食事摂取によって体重減少はみられるもののインスリン抵抗性の改善はみられない」との研究成果がアメリカ・ワシントン大学から発表されたことがあります。一時期、多くの医学者に注目されましたが、たんぱく質を多く摂るとインスリン抵抗性が悪くなるということではありません。推奨量のたんぱく質を摂取している人ではインスリン抵抗性が25〜30%も改善したのに、高たんぱく質の食事をしてもインスリン抵抗性の改善はみられなかったという報告でした。
送付してもらったパンフレットにはインスリン抵抗性とメタボリックシンドロームとの関係が示されていて、「たんぱく質を控えないと減量できない」と書いてありました。これを読んで、たんぱく質の量を減らすようになってしまったら糖尿病の予防・改善だけでなく、他の疾患の予防・改善についても逆効果になりかねないとのコメントをさせてもらいました。
ちなみに厚生労働省の『日本人の食事摂取基準』(2015年版)によると成人の1日当たりのたんぱく質摂取推奨量は男性が60g、女性が50gとなっています。
シクロデキストリン、L‐カルニチンについては、このサイトの「サプリメント事典」を参照してください。