食物繊維は便通以外で何に役立っているのか

前回は六大栄養素から食物繊維を除いて、代わりにヒトケミカルを加えるという話をしましたが、すぐに反応があって「食物繊維は代謝に関わらないのか」という声があり、中には「食物繊維は必要ないのか」という声まで寄せられました。食物繊維がいらないと言っているわけではなくて、エネルギー代謝で考えると6番目は食物繊維ではなくヒトケミカルだろうと言っているだけです。
食物繊維というと便通に必要なものという認識がまずあります。食物繊維は消化も吸収もされないものという原則があります。代謝のためには消化が必要となります。“原則”と書いたのは、胃で消化されず、小腸で吸収されないのであって、大腸では腸内細菌によって分解されます。そして、代謝に必要なビタミンB群の中でも特に重要なビタミンB₆が大腸内での発酵と吸収によって補われます。となると、食物繊維は代謝には必要なものということになります。
食物繊維は不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2種類に大きく分けられます。不溶性食物繊維は水に溶けることがない性質があり、水溶性食物繊維は水を吸って膨らんでゲル状になります。不溶性食物繊維は腸壁を刺激して腸の蠕動運動を進めてくれます。しかし、不溶性食物繊維には便を硬くする作用があります。それに対して水溶性食物繊維は水分を多く取り込むことによって便を軟らかくして通過しやすくする作用があります。
また、水溶性食物繊維は粘度が高まることから、胃から腸にゆっくりと移動します。そのために糖質も脂質も、ゆっくりと通過していきます。糖質の中に含まれるブドウ糖は吸収がよいと血糖値が急上昇しますが、通過に時間がかかることで血糖値の上昇が緩やかになります。血糖値が高くなると、それに応じて膵臓からインスリンが多く分泌されます。インスリンはブドウ糖の細胞への取り込みを進めるホルモンですが、肝臓での脂肪の合成、中性脂肪の脂肪細胞への蓄積を進める役割もあります。また、水溶性食物繊維は脂肪の一部を吸着して吸収されにくくさせる働きもあります。
不溶性食物繊維、水溶性食物繊維に関わらず、食物繊維を多く摂ることで腸内での善玉菌の活動が盛んになります。というのは、食物繊維が善玉菌の栄養源(エサ)となっているからです。善玉菌が増えると悪玉菌が減ります。悪玉菌は腐敗によって有害物質(毒素)を作り出します。この有害物質は大腸壁を通り抜けて血液中に入ります。肝臓で完全に分解されない場合には再び血液中に入って、全身を回っていきます。細胞にとって有害物質は不要なもので、代謝にも悪影響を与えます。便通がよくないことは代謝を低下させる原因となっているのです。
便通だけでなく、栄養の吸収に影響を与えるということは、吸収されたエネルギー源の糖質と脂質の代謝にも影響を与えるということです。有害物質による悪影響も考えると、代謝に関わらないどころか、大いに関わっていたということです。そんなにも重要な役割をしているのに、六大栄養素から除こうとしているのは、あくまでもエネルギー代謝という側面から見たときの重要性の順番であって、あえて7番目の存在として重視するのは当然のことです。