腐敗と発酵は違うものなのか

寒い季節のほうが過ごしやすいということはあまり感じないのですが、臭いの問題となると温かくなるにつれて強くなってくるので、「もっと寒さが続けばよいのに」と思うことがあります。臭いを発生させる腐敗菌は一定の温度になると活発に働くようになり、食品を腐敗させて、活発になるほど、数が増えるほど臭いが強くなってきます。同じ「におい」という読み方でも、これが匂いとなると、よい香りとなります。臭いは「くさい」とも読むように不快感を高めてしまいます。
味については“うまい”“まずい”は味本来の関係だけではなくて記憶も影響していて、過去に美味しいと感じたことがあるものや、それと似た味のものは美味しいと感じます。その例としてよくあげられるのが松茸の香りです。日本人にとって松茸はよい香りで、味はしめじに負けるかもしれないけれど(匂い松茸、味しめじという言葉がある)、あまりよくない臭いということはありません。
といっても松茸が自然の中で完全に育つと、物凄い匂いを発して、これは匂いというよりも臭いと感じることもあります。この匂い(臭い)に誘われて昆虫が寄ってきて、菌を周囲に撒き散らかしてくれます。繁殖のために匂いを使っているわけです。これは他のキノコも同じですが、特に松茸は強い匂いとなっています。
日本人には松茸はよい香りであっても、慣れていない欧米人は「カビ臭い」と言います。せっかく高い店でご馳走したのに、そのリアクションはないだろうと思いますが、嗅覚というのは、そういうものです。松茸に特有の香りの主成分のマツタケオールは味噌や醤油にも含まれるもので、味噌や醤油を美味しいと感じている人は香りもよいものと感じて、松茸もよい香りに感じます。
日本人といっても、生まれも育ちも海外という人は反応が異なる人がいて、よい匂いという人と、よくない臭いという人がいるのですが、これは育った環境、つまり日本的な発酵食品を食べていたかどうかが関係しています。
気温が高まってきたことをゴミ収集場所の近くを通ったときに臭いから感じることもあります。風が吹くと寒い時期でも菌にとってはよい環境になってきているということです。温度が高まると腐敗とは真逆のことも起こります。それは発酵です。「発酵食品は腐らない」と言われることもありますが、腐敗も発酵もメカニズム的には変わりがなくて、菌はエサになるものを食べて(取り込んで)、中で代謝させて、代謝によって発生した代謝物を外に出しています。それによって有害になるものを作るのが腐敗、有益になるものを作るのが発酵と区別しているだけです。
発酵させる菌が頑張っていると、腐敗させる菌は抑えられるので、発酵食品は腐らないと言われることがありますが、これは正しくはありません。「発酵している間は腐らない」のであって、「発酵が止まった発酵食品は腐る」ということです。