60代以降の方は、バランスの取れた食事というと、いまだに「1日30食品」ということを言います。この言葉が言われるようになったのは、1985年(昭和60年)に当時の厚生省から発表された食生活指針の中に「1日に30食品を目標に」という項目が加わったからです。
他の国では多くの食品を食べることをすすめることはあっても、食品数を示した例はなかったのですが、なぜ30食品という数字が出てきたのかというと、運動と休息が関係しています。当時の健康づくりの基本は栄養・運動・休息が3原則で、目標に数値として運動担当から「1日に30分の運動時間」、休息担当から「夕食後に30分の休息時間」という案が出て、栄養も30分で目標を出すことが話し合われたのですが、そのときに初めに考えられたのが「夕食に30分の時間をかけて」ということでした。
しかし、それだけの時間をかけられる人は少なく、そこで「30」という数字に着目して「30食品」が出てきました。30食品といっても、どんな種類の食品を食べているのかが重要で、その種類を調べようということで1000人の基礎調査が行われました。その結果、30食品を食べていたのは2人だけで、比較するためには何人の調査をすればよいのだという話になり、本調査は諦めた経緯があります。
厚生労働省の国民健康・栄養調査では、バランスの取れた栄養を摂っている人は1日に17食品以上であることがわかってから、いつの間にか30食品は引っ込められていました。だからといって少ない食品数でもよいということではなく、おかずの種類を増やすことは大切です。
おかずは漢字では「御加数」と書きます。御加数は江戸時代の本草学者・儒学者の貝原益軒の健康指南書『養生訓』に出てくる言葉で、おかずのことを指します。本草というのは今でいう医薬のことです。多くの数を加えることによって健康を保とうという考えから作られたもので、多くの食品を食べて、多くの種類の栄養素を摂ろうという栄養学の基本中の基本を教える言葉となっています。多くの食品を食べるのは栄養素のバランスだけでなく、もしも有害物が含まれていた場合に危険の度合いを薄めることも考えられています。