「親が死んでも食休み」という言葉があります。たとえ親が死んだとしても食事のあとの休養は大切だという意味で、食事をしたあとに働いたり、勉強をしたり、ましてや運動をするようなことがあってはいけないという戒めにもなっています。そんなことを言われなくても、食事をしたあとには、消化のために身体の働きが低下します。活動的になっているときには自律神経の交感神経の働きが盛んになります。胃液の分泌を盛んにするのは副交感神経のほうで、心身をリラックスさせる働きがあると同時に、身体を休めているときに副交感神経の働きは盛んになります。消化を進めるためには、できるだけ身体を休めるのがよいということです。
食事をしたら身体を休めたくなるのは当然のことなのですが、眠くなるというと問題があります。眠くなる原因としては食べすぎで胃液が多く分泌されるようになり、血液も胃や腸に集中するようになって、脳に回る血液量が減るということが起こります。もう一つは血糖値の変化です。血糖値は血液中のブドウ糖の量を示す値で、食品に含まれるブドウ糖が多いほど血糖値が上昇します。脳のエネルギー源はブドウ糖だけで、脂肪酸もアミノ酸も脳細胞には取り込まれません。脳はブドウ糖が多くなると満腹感を感じるようになっていて、実際に胃に入った量ではなく、脳のブドウ糖の量によって満腹、空腹を判断するようになっています。そのことから血糖値の上昇は、満腹になったから身体を休めようとする反応となります。
もう一つは、血糖値の急降下です。血糖値が急上昇すると、それに応じて膵臓から血糖値を下げるホルモンのインスリンが多く分泌されます。正常な状態の人の場合には、インスリンが多く分泌されることによって全身の細胞に取り込まれるブドウ糖が増えて、急に血糖値が下がることにもなります。血糖値の急降下は全身の重要なエネルギー源のブドウ糖が血液中から減って、身体を正常に働かせることができなくなるので、眠くなるという説明です。正常な状態の人は、ということは、正常でない人について気になるかと思います。それは糖尿病か糖尿病予備群の人で、国民健康・栄養調査では成人の5人に1人が該当しています。これに当てはまる人は、血糖値の急上昇によって食後に眠くなると考えてよいということです。