今でこそ世界有数長寿を誇っている日本人(男女ともに世界2位)ですが、平均寿命が50歳に達したのは1947年(昭和22年)のことです。その当時にアメリカは60歳、北欧は70歳に達していたので、いわゆる先進国の中では下位に位置していたのです。
その当時の食事は、たんぱく質と脂肪が少なく、そのために免疫が低く、死亡原因の1位は結核でした。また、肉食・魚食が不足していてコレステロールも少なかったため、血管が弱く、脳血管疾患で亡くなる人が2位と非常に多かったのです。
粗食は、それ以前の、もっと不足しているものが多かった食事です。粗食から脱却して、寿命が一気に延び、生活習慣病になる人が少なかったときには、不足していた肉食、魚食が増え、糖質と脂質、たんぱく質のバランスがよく、しかし食べすぎてはいなかったのです。今の食生活から戻るとしたら1960年から1970年の食事のはずです。
長野県の平均寿命は男性が2位、女性が1位ですが、その中でも長寿地域として知られるのは戸隠村(現在は長野市戸隠)です。高地のため、米も麦も採れず、蕎麦が主食となっていたため、蕎麦が長寿食と位置付けられています。確かに蕎麦は健康食で、今も家族で夕食に蕎麦打ちをして蕎麦を食べる回数が多い家庭には長寿者が多い、という調査結果もあります。
しかし、蕎麦が長寿の秘訣なのか、家族が多いことが大事なのかという議論もあります。三世代が同居している家族は、高齢者も若い人が好むものも少しは食べ、子供も伝統食を口にする機会が多く、いろいろなものを食べている家庭のほうが健康で長寿であるという報告も多いのです。一人か二人で暮らしている家よりも大家族のほうが刺激は多く、活動量も多いということもあるのでしょうが、多くの食材が食卓にのぼる食事は、世界の長寿地域に共通していることです。
長野県では漬物を食べる機会が多く、食塩の摂取量も多く、高血圧への影響も心配されるものの、漬物の種類も多く、食堂でも一度に5~6種類も出ることがあります。漬物だけでなく、食卓の品数が多いことは当地の特色です。このことが健康長寿に結びつくということは、かつては長寿日本一であった沖縄県のチャンプルー食と共通していることです。