グルジアのコーカサス、パキスタンのフンザ、エクアドルのビルカバンバは、世界三大長寿地域と呼ばれています。その中でも日本で知られているのはコーカサスです。カスピ海と黒海の間に位置する、この地域が、よく知られるようになったのは、カスピ海ヨーグルトが長寿の食として広まったのが、きっかけでした。
コーカサス地方では、小麦とトウモロコシのパンにチーズ、肉類、香味野菜、プルーンを中心に食べてきましたが、なんといっても特徴的なのは独特なヨーグルトの存在です。このヨーグルトは強い粘りがあり、酸味が少なく、一般的なヨーグルトが40℃前後で発酵するのに対して、20~30℃の常温で発酵するため、株分けすることによって簡単に手作りができます。株分けというのは、牛乳に種菌としてヨーグルトを加えて発酵させ、新たにヨーグルトを作っていく方法です。
ヨーグルトは牛乳が乳酸によって発酵することによって作られます。日本ではヨーグルトの乳酸菌というと、ビフィズス菌やブルガリア菌などが有名ですが、カスピ海ヨーグルトはクレモリス菌とアセトバクター菌という特有の2種類の乳酸菌によって作られています。
クレモリス菌は糖を分解して乳酸を作る乳酸菌で、粘りのもとになる粘性多糖類を作り出していきます。この菌は、嫌気性球菌(空気が嫌いな球形の菌)で、乳酸にも弱いという特徴があるため、クレモリス菌だけでは空気に触れることでも、乳酸に触れることでも死滅してしまいます。
それなのに特有のヨーグルトを作り続けることができるのは、アセトバクター菌と一緒に働いているからです。アセトバクター菌は好気性桿菌(空気が好きな細長い菌)で、乳酸を作らないので、ヨーグルトを作ることはできませんが、クレモリス菌との組み合わせで、大切な役割をしています。アセトバクター菌は容器の中で上側にたまって空気を遮断することでクレモリス菌の発酵を進めてくれます。また、アセトバクター菌には乳酸を食べて減らす働きがあることも、クレモリス菌の発酵を進めるのに役立ちます。この2種類の乳酸菌の組み合わせがあって、初めて特徴的なヨーグルトが出来上がるというわけです。