世界の長寿地域のコーカサス地方にはカスピ海ヨーグルトのほかにケフィアという発酵乳も食べられています。他のヨーグルトは1~2種類の乳酸菌によって発酵しているのに対して、ヨーグルトきのことも呼ばれるケフィアは、数十種類の乳酸菌や酵母菌による複合型の発酵乳で、やはり組み合わせが大きな力となっています。
長寿地域に特徴的な食べ物があると、それが長寿に役立っていると結びつけがちですが、結論的には乳酸菌は、腸内細菌の善玉菌の役割をするとともに、もともと腸内に棲んでいる発酵を進める善玉菌を増やす働きもあります。善玉菌は、腸内が酸性傾向になったときに増殖しやすい性質があるため、乳酸菌が多くなると、善玉菌が増えていきます。腸内細菌の数は300兆個ほどといいますが、善玉菌が増えると悪玉菌が減っていくので、腸内の状態がよくなっていきます。
腸内細菌のバランスがよいと、整腸作用だけでなく、免疫増強や発がん抑制などの効果もあることから、もともと日本人が食べていなかった乳酸菌を摂ることでも、日本人の腸で有効であれば健康長寿の手助けになります。
腸内細菌は100種類以上あり、その量のバランスは国民によって異なっています。その量のバランスに影響を与えてきたのは、歴史的な食生活です。日本人の食事の変化は戦後の60年で1000年分にも相当するといいます。それほどの大きな変化であっても、日本人の腸内に棲みついてきた善玉菌と悪玉菌の割合は、大きく変わることはありません。
有益であることが認められている新たな乳酸菌を摂ることは効果があることではあっても、日本人が伝統的に摂ってきた乳酸菌を補うことも忘れてはいけません。最近ではラブレ菌という京野菜のすぐき菜(蕪の一種)を材料にして作られる、すぐき漬けから分離された植物性乳酸菌が有名になっています。ラブレ菌は免疫増強が期待されており、乳飲料で手軽に摂ることができるようになりましたが、漬物には、このほかにも数多くの乳酸菌が含まれている複合型の乳酸菌食品といえます。
日本には、味噌、醤油、醸造酢、味醂、納豆、鰹節、塩辛、くさや、なれずしといった発酵食品があり、これらにも特有の乳酸菌が含まれています。日本人は、これらの複数の乳酸菌を数多く摂ってきた歴史があり、それが腸内細菌の善玉菌を増やしてきただけに、肉食や脂肪が多い食生活で悪玉菌が増えやすい状態にある人は、伝統的な食品を見直すことも健康長寿を目指すためには大切なことです。