エスキモーについて、初めて大規模な調査を行ったのはデンマークの研究者でした。1960年代にデンマーク領グリーンランドのエスキモーとデンマーク人の疾病発症頻度の比較をして、急性心筋梗塞が極めて少ないことを発表しています。そして、エスキモーの食生活ではEPAが多く、逆にアラキドン酸の摂取が少ないことを突き止めています。
EPAは魚油に特徴的に多い不飽和脂肪酸で、血液を固まりにくくさせる性質があります。アラキドン酸は、出血時に血小板の働きを高める作用があり、血小板が多く作られると、それが剥がれ落ちてできる血栓を増やすことが知られています。EPAにも血栓防止作用がありますが、血小板を多く作る働きはありません。また、EPAには中性脂肪を減らし、HDL(善玉コレステロール)を増やし、動脈硬化を防止する作用もあります。
肉の種類が変わっただけでなく、調理法に加熱が加わったことも、病気の増加に大きく影響しています。牛肉には酵素が多く含まれています。酵素というのは、動物や植物の細胞の中にあって、生化学反応を起こさせている触媒のようなものです。
身体の中にある酵素と、動物や植物の酵素はイコールではなく、食べ物から酵素を摂ったからといって、私たちの体の細胞を働かせるものではありません。しかし、酵素を摂り入れると、体の中の酵素を効率よく働かせることができるようになります。酵素は、消化酵素と維持酵素の2種類があり、1日に使われる酵素の量は、ほぼ決まっています。食べたものが胃の中で消化されるときに使われる消化酵素が多く必要になると、その分だけ細胞を働かせる維持酵素が減り、体の代謝が低下することになります。
生ものを多く食べていたときに対応していた身体の仕組みは、焼いて酵素が減った食事をすることで維持酵素が大きく減り、その影響が、血管の健康から現れるようになったということです。日本人は、生肉を食べる習慣こそないものの、魚や野菜などを生で食べる機会が多い国民でした。しかし、今では魚食が減り、食品から摂る酵素の量が減っているので、「酵素」という観点からも、食生活を見直してもよいのではないでしょうか。