脂肪は種類で溶ける温度が違っている

砂糖が使われたものを食べておいしく感じるのは、ブドウ糖が満腹中枢を刺激して、幸福感を生み出すためだということは、よく知られています。しかし、脂肪が含まれたものを食べておいしく感じる仕組みについては充分には理解されてはいないようです。
脂肪には「油」と「脂」があります。脂肪(油脂)は脂肪酸とグリセライドによって構成されていて、その性質は脂肪酸の種類で決まっています。肉類には飽和脂肪酸が多く、魚には不飽和脂肪酸のDHAやEPAが多いといわれますが、実際には動物や植物に含まれる脂肪は複数の脂肪酸が混ざり合っていて、その割合によって脂肪の性質も異なっています。
この性質の違いで目立っているのは溶ける温度です。飽和脂肪酸は融点(固体が溶ける温度)が高く、そのうちのミスチリン酸は54.5℃、パルミチン酸は63.1℃、ステアリン酸は69.6℃となっています。これらの肉類や乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸は血液中の中性脂肪やコレステロールを増やすため、脂質異常症や動脈硬化の要因とされています。
牛乳が原料のバターは飽和脂肪酸が多いので、おいしくても控えるようにしている人が多いようですが、マーガリンは植物油が原料なので多く摂っても安心と思っている人も少なくありません。しかし、マーガリンは不飽和脂肪酸に水素を添加して飽和脂肪酸に変えたもので、マーガリンの原料となるヤシ油やパーム油は植物性油脂でありながら飽和脂肪酸のパルミチン酸やラウリン酸が多く含まれています。不飽和脂肪酸は融点がマイナスとなっているため、常温では液体となっています。
脂肪は、これらの脂肪酸が組み合わされているので融点が異なってくるわけですが、飽和脂肪酸の多くは体温の高い動物の血液の中で溶けています。人間の血液温度は動物の血液よりも温度が低いので、飽和脂肪酸は血液中では固まりやすくなっています。
それに対して、魚に含まれる油は不飽和脂肪酸が多くなっています。魚は水の中にいるので、その血液の温度は人間の血液よりも低く、人間の血液に入ると溶けやすくなるというわけです。