発達障害の自閉症スペクトラム障害にみられる感覚過敏について、五感に関係するものについて紹介してきましたが、五感とは関係がないところで食べられないものがある発達障害児も少なくありません。牛乳が飲めないという子どもについては何回か紹介してきましたが、牛が嫌いだから牛乳が飲めない、友達が以前に牛乳を飲んで吐いたことがあるので飲めなくなった、というのはまだ理解ができないことはありません。
ビンの牛乳やコップに入った牛乳なら飲めるのに、牛乳パックにストローを挿して飲むことができないという子どももいます。これについて原因を聞き集めたところ、牛乳パックを持ったときにストローから牛乳が出て、指が汚れて気持ちが悪かったのが始まりだったという子どもが案外に多くて、驚いたことがあります。指先のヌルヌルした感触が嫌いで、また経験するのが嫌で牛乳パックでだけは飲めないとなると、通常の食事指導の範囲を超えています。
温度も食事には重要で、温かなご飯は食べられても、冷めたご飯が食べられないという子どももいます。これは単に温度が違うからということではなくて、米のでんぷんの性質も関係しています。米は炊飯や蒸煮などによって加水加熱するとアミロースの結合が崩れて、でんぷんが糊化します。この状態をα(アルファ)化といいます。α化した米のでんぷんは熱が冷めていくとβ(ベータ)化して老化した状態になります。粘性が失われて、消化が悪い状態になります。
粘度が高いコシヒカリ系の米はβ化するとおいしくなくなりますが、粘度が低いササニシキ系の米はβ化してもおいしさが残るという特徴があります。米を変えることで、冷めたご飯は食べられないということがなくなり、その成功体験が冷めた料理でも食べられるようになる、ということもあります。家で飲食している米と銘柄が違うと食べられないという子どももいますが、これも炊飯米の性質が関係しているようです。
餅はα化したしたあとにβ化しにくいのですが、ネバネバのために喉に詰まりやすくなっています。餅は飲み込み能力が高い若い世代が喉に詰まることは少ないものの、喉に詰まることがあると思っただけで食べられない子どももいます。
このほかに、使い慣れた食器でないと食べられない、加工食品しか食べられない、不衛生な台所で作ったものは食べられないということもあります。さらに、母親が強制したことが嫌いになった食べ物がある、苦手な食品を知らない間に入れられたから家で食べたくない、ということまであって、食事の困難さを克服するのは大変です。