どさくさまぎれに好き勝手なことをしようとすることは火事場泥棒と呼ばれ、新型コロナウイルス感染拡大対策でも使われていた言葉です。いくら緊急事態の火事場であっても、しっかりと状況を見極める心の落ち着きがあれば、火事場泥棒を防ぐことができそうですが、本当の意味の火事場泥棒となると火事場に集中しているときには見逃してしまいがちです。
火事場では、大事な財産が奪われないように他の安全な場所に運び出すことが必要です。今の消防活動は消防車が駆けつけて火災を消すことに注力します。また、火事場見物で騒ぎが起こらないようにもしますが、それは警察の仕事となっています。消防の歴史をみると、今では消防と警察は独立した組織になっていますが、一時期は消防は警察の中にあって、組織的には消防は警察の下にありました。火事場は全体的には警察が仕切って、消防は火を消すことにだけ取り組めばよかったのです。
時代を遡って、江戸時代の火消の話ですが、将軍直轄の定火消は四代将軍家綱が定めた制度で、4人の旗本に命じて設けさせた消防組織です。町火消は、いろは48組と本所・深川の16組の合わせて64組による町民組織で、八代将軍吉宗が定めた制度です。
定火消は消火活動のみが仕事でしたが、町火消は鳶職が兼ねることが多く、大店の建築を担うことが多かったことから、火事場で泥棒の被害に遭わないように店の財産の運び出しにも力を貸しました。火事場から緊急に財産を運び出すのには、他の町民も協力しました。火事から財産を救ってあげようと火事場から荷物を運び出したまではよいけれど、そのまま持ち逃げしてしまうようなことがあり、これが本来の火事場泥棒です。
緊急時に助けるふりをして、そのまま好き勝手なことをするのが火事場泥棒と呼ばれる行為になり、今のような使われ方をするようになりました。見るからに盗賊のような装束と行動をする人ばかりなら防ぐことはできても、助けるふりをして盗賊行為をされたのでは防ぎようがないということで、常に火事場泥棒には目を見張っている必要があるという意味で使われるようになったということです。