歩くと腸の動きがよくなっていきます。その理由として、ウォーキングの団体が「歩幅を広げて歩くことで腰が動き、腸が揺り動かされる」ということを述べていました。それを完全に否定するものではないのですが、腸が動くことで腸内細菌の善玉菌が増えて、便の状態がよくなり、その結果として便通がよくなるということまでは起こらないはずです。では、歩くと、どうして腸の状態がよくなるのかというと、善玉菌が増えやすい腸内環境になるからです。腸には多くの毛細血管が張り巡らされています。歩いて血流がよくなると、毛細血管を通過する血液量が増えます。温かな血液が多く運ばれてくると腸は温まっていきます。
腸内細菌は種類によって増殖しやすい温度が違っていて、悪玉菌は温度が低めでも温かめであっても増えていきます。それに対して善玉菌は温度が低めでは増えにくく、温度が高めの状態で増えていきます。腸の温度が高いと善玉菌も悪玉菌も増えるわけですが、善玉菌が増えると悪玉菌の増殖が抑えられるので、結果として善玉菌が優位になり、腸内の発酵が盛んになり、便が軟らかくなり、量が増えて、通過しやすい状態になるのです。
自律神経の働きでみると、興奮系の交感神経は胃液の分泌を抑えて、腸からの栄養の吸収を抑えて、腸の蠕動運動を遅くする作用があります。消化吸収をよくして、便通をよくするということでは交感神経の働きが盛んになることはマイナスになります。それに対して、抑制系の副交感神経のほうは胃液の分泌を増やして、腸からの吸収を盛んにして、腸の蠕動運動を盛んにしてくれます。
ということで、運動をすることは交感神経の働きを盛んにすることになるので、胃と腸のことを考えるとよくないことのように思われがちです。しかし、適度な運動レベルのウォーキングは興奮作用よりも抑制作用のほうが優っていて、歩くことによるリラックス効果が高まります。そのために、腸の働きをよくする効果が期待されます。
といっても、身体的には交感神経も刺激されている状態で、ストレスが蓄積されていて、精神的に興奮ぎみの人は、なかなか腸の働きがよくなるところまでいかないということもあります。ところが、最初に紹介したように、歩くことによる血流促進によって善玉菌が増えるというメリットがあり、両方の働きが合わさることによって歩くほど腸の活動がよくなっていくということになるのです。