全身の細胞で使われるエネルギー物質は、それぞれの細胞の中で発生します。そして、その細胞の中でだけ使われます。いわば地産地消型のエネルギーで、全身の細胞を活性化させようと思ったら、部分的な運動ではなくて、全身運動が必要となります。その点では歩くことは、首から上は充分には動かせないものの、全身の90%ほどの筋肉は使うことになります。筋肉への刺激は弱めであったとしても使う部分が多く、しかもきつい筋トレとは違って長く続けることができるのがウォーキングのよさで、炎症反応を起こさないというメリットもあります。
炎症反応というのは、筋繊維(筋肉細胞)を傷つけるような運動をしたときや、ウイルス感染をしたときなどに細胞レベルで発生する炎症のことで、これは急性炎症と呼ばれます。急性炎症は身体の不調を直接的に引き起こします。もう一つ、慢性炎症というのがあって、これは生活習慣病や肥満、運動不足によって起こるもので、反応が弱いことから痛みや違和感もなく気づかないまま進行しますが、着実に身体に影響を与えていきます。
この慢性炎症が脂肪細胞で起こると生理活性物質が多く放出されて、血糖値が下がりにくくなり、糖尿病を引き起こします。また、生理活性物質は血圧を上昇させて、高血圧の原因にもなります。慢性炎症が免疫細胞に起こると血管内皮細胞に影響が出て動脈硬化にもつながります。そして、脳細胞に慢性炎症が起こると、認知症も引き起こされます。
歩くことは認知症予防によいとされ、多くの研究によって、これが裏付けられていますが、その理由については明らかではないところがありました。しかし、運動不足と、運動不足による肥満が慢性炎症を引き起こし、脳細胞に現れることで認知症につながることがわかってきて、今ではウォーキングは慢性炎症を抑えて、認知症予防につながると認識されるようになってきました。
炎症反応を抑えるためには、全身の細胞が正常に働くことが必要で、その働かせるためのエネルギーが歩くことによって作り出されるということがわかると、全身の健康づくりには、まずは歩く機会を増やすことが大切だということがわかってくるはずです。