新型コロナウイルスの重症化に関与する生理活性物質

新型コロナウイルスは感染することは大きな問題ではなく、重症化することが大問題であることは随分と知られるようになってきました。その重症化に関与しているのは炎症性サイトカインIL−6で、その機構を解明することが感染防止対策の重要課題となっています。
サイトカインというのは細胞から分泌されるタンパク質で、さまざまな生理活性を担っています。細胞間の相互作用に重要な役割を果たすことから、生理活性物質とも呼ばれています。IL−6(インターロイキン6)は免疫細胞から放出されるタンパク質で、炎症性サイトカインとして働いています。自然免疫から獲得免疫まで幅広い働きを持っていて、IL−6が過剰に産生されるとサイトカインストームを引き起こすことが知られています。
サイトカインストームは免疫細胞がウイルスと戦うために作るサイトカインが、制御不能となって放出され続け、自らの細胞まで傷つけることを指しています。新型コロナウイルスによって産生されたIL−6がPAI−1を介して血栓を作るようになり、これもサイトカインストームの引き金とされています。PAI−1は血管内皮細胞や肝臓、血小板などに存在していて、血管内皮障害や血小板の崩壊によって血液中に放出されます。血液中で高い値を示した場合には、血栓が溶けるのが阻害され、血栓の成長が促進されます。これによって血栓が血管内で詰まるのが動脈硬化の始まりです。
このことは実験室での試験管試験で、血管内皮細胞をIL−6で刺激することによってPAI−1が誘導されることで確認されています。この現象はIL−6の働きをブロックする抗体医薬品アクテムラ(一般名:トシリズマブ)によって抑えられました。新型コロナウイルス感染者のPAI−1レベルは、細菌性敗血症や重症熱傷の患者に匹敵する高さで、肺をはじめとする多くの臓器で血栓を作らせ、血管から液性成分を漏出させ、炎症の重症化につながっています。アクテムラがIL−6を抑えることでサイトカインストームによる肺炎重症化を防ぐことができることが確認されたわけです。