発達障害の人は体内時計が調整しにくい

体内時計という言葉がありますが、もちろん身体の中に時計があるわけではなくて、1日のリズムを刻んでいる調整機能を指しています。その調整をしているのは、脳の視床下部の視交叉上核という部分で、自律神経、ホルモン分泌、血圧などを調整して、昼間には活動的にさせ、夕方以降は休息させるというように生活環境に合わせて切り替えを行っています。この体内時計のリズムは概日リズム(サーカディアンリズム)とも呼ばれていますが、寝るべき時間に起きている、昼間に寝ているというようなことがあっても一時的なことであれば、規則正しい状態に戻すことできます。
調整能力が備わっているわけですが、発達障害では、その調整能力がうまく働いてくれないのが一つの特性となっています。発達障害の注意欠如・多動性障害、自閉症スペクトラム障害では神経発達症と呼ばれる状態になっていて、寝つけない(入眠困難)、起きられない(過眠)、寝ている途中で目が覚める(中途覚醒)などの睡眠障害を起こしやすくなっています。しかも一つの障害ではなく、複数の睡眠障害を併発することも少なくありません。
注意欠如・多動性障害では50%ほど、自閉症スペクトラム障害では50〜80%ほどに睡眠障害がみられるとの報告もあります。これだけの割合で発症するとなると、これ自体が治療の対象となりますが、睡眠障害の原因が発達障害の脳の神経機能の低下ということになると、まずは生活改善の指導が行われます。その指導というのは、早寝をして早起きをする、朝に太陽光を浴びる、規則正しい食生活ですが、これで改善がみられない場合には脳の松果体から分泌されるホルモンのメラトニンと同様の治療薬が使われます。
メラトニンは2010年に睡眠障害の治療薬として承認されていましたが、2020年3月から小児期の神経発達症に伴う入眠困難を対象として子どもにも使うことができるようになりました。対象者は6〜15歳で、使用期間は3か月間とされています。この期間に生活改善をして睡眠リズムを整えようというわけです。メラトニンによって睡眠障害の改善だけでなく、神経発達症に特有の行動も抑えられるようになったとの報告もあります。
この報告を受けて、親の中にはメラトニンを個人輸入や輸入代行によって使用したいと考える人もいますが、治療効果があり、安全性が確認されているのは医薬品として国内で承認されたものだけです。これ以外のものは安全性、有効性ともに確認されているわけではないので、誤った行動だけは謹んでもらいたいところです。