縁起かつぎは迷信のようなものと考えられていますが、いまだにスポーツの世界では「敵に勝つ」の語呂合わせでテキ(ビフテキ)とカツ(トンカツ)を一緒に食べて、戦いに臨めば勝てるということで、試合当日の朝食に2種類の肉料理が出されることがあります。この縁起かつぎを最も多く実践しているのは高校野球です。
ビフテキはビーフステーキの略語と言われていて、以前はよく使われていたものの、今では死語になりつつあります。若い世代では聞いたことがないかもしれません。しかし、ビフテキの語源はフランス料理のビフテック(bifteck)です。牛肉を焼いた料理で、内容としてはビーフステーキと同じです。焼いた牛肉と揚げた豚肉を食べたら、かなりパワーが出そうな感じがするため、「テキにカツ」は納得できそうな感じもあります。
ところが、そうではない、という考えがあり、肉に含まれる飽和脂肪酸は、いわゆる血液ドロドロの脂肪酸で、食事をしてから完全に消化・吸収されるまでには6時間ほどもかかります。これは完全に消化・吸収されるまでにかかる時間で、小腸から吸収されて血液中に多くなり始めるのは1時間ほどしてからです。飽和脂肪酸は血液中で固まりやすく、血流を低下させることになります。
飽和脂肪酸は炭素の結合に二重結合がない脂肪酸で、酢酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの種類があります。動物性食品に多く含まれ、飽和脂肪酸の摂取量が多くなると動脈硬化のリスクが高まります。そのため、「日本人の食事摂取基準」では全体の脂肪酸のうち飽和脂肪酸は7%以下とするように示しています。脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、飽和脂肪酸は常温では固形、不飽和脂肪酸は常温では液状になっています。
血流が低下すると酸素が早く運ばれにくくなり、糖質をエネルギーとして代謝させるときに必要な酸素が減り、充分にエネルギーが作られなくなってしまいます。血液中の飽和脂肪酸が減って、血液がサラサラの状態に戻るまでには5〜6時間はかかります。これでは試合が終わってからパワーが出るということにもなりかねないので、朝食に「テキにカツ」は向いていないことになります。縁起をかついで食べるなら、前日の昼食か夕食にすべきだということです。