日本人は幸せな長生きなのか

日本人の平均寿命が男女ともに50歳を超えたのは昭和22年(1947年)のことで、その当時のアメリカの平均寿命は60歳、北欧では70歳に達していました。先進国の中では最下位であり、当時の長寿国とは20年もの開きがありました。
平均寿命は、現在の日本人が何歳まで生きられるかではなく、その年に生まれた子どもが同じ生活環境、医療環境、経済状況の中で暮らした場合に予測される寿命のことを指しています。終戦の年の状況では、せいぜい50歳までしか生きられない短命な国民とみられていたわけです。
終戦後に初めて平均寿命が発表されたのは昭和22年(1947年)のことで、男性は50.06歳、女性は53.96歳でした。3年後の昭和25年(1950年)には女性の平均寿命は60歳を超え、それに続いて「もはや戦後ではない」と言われた昭和30年(1955年)には男性も60歳を超え、それ以降は急速に平均寿命が延びることとなりました。いかに生活環境が急速に改善されたかが、平均寿命の変化からもわかります。
昭和52年(1977年)には男性の平均寿命が77.69歳と世界1位となり、続いて昭和59年(1984年)には女性の平均寿命が80.18歳と世界1位となりました。平成29年(2017年)には男性は3位、女性は2位となり、女性は令和2年(2020年)に1位に、男性は2位になったものの、健康寿命の延伸がゆるやかになっていることから、男性が1位に返り咲くのは、まだ先のことと推測だとされています。
戦前の日本人は伝統的な食生活を守って暮らしてきました。ご飯を中心とした食事であったことから炭水化物(糖質)の摂取量が多く、肉食が不足していたことからたんぱく質と脂質が少ない食生活でした。戦後の食糧難は5年ほど続き、やっと普通に食べられるようになったのは昭和20年代後半からのことです。昭和30年代に入ると肉類の消費量が増え、家庭でも豚肉などが入ったカレーライスが普及していきました。食糧難を脱しつつあった昭和25年(1950年)からは動物性たんぱく質の摂取量が増えるにつれて血管が丈夫になり、脳血管疾患による死亡者は減っていくことになりました。
脳血管疾患による死亡数は昭和55年(1980年)までは第1位を占めていましたが、昭和56年(1981年)から昭和59年(1984年)までは第2位に、昭和60年(1985年)から平成6年(1994年)までは第3位と下がっていきました。平成7年(1995年)、平成8年(1996年)には脳血管疾患は第2位となり、平成9年(1997年)以降は第3位、そして平成23年(2011年)からは肺炎に抜かれて第4位となっています。
病名の総称としては同じ脳血管疾患であっても、その種類と原因は終戦直後と現在では大きく異なっています。終戦直後は魚食と野菜、穀類などの伝統的な食生活に肉食が少し加わった程度であったことから、肉類に多く含まれるコレステロールの摂取量が大きく不足していました。そのため、血管壁の材料でもある血液中のコレステロールが足りないことから血管が弱くなり、血管が切れて出血する脳出血が多くを占めていました。
それに対して現在は、コレステロールの摂取量が格段に多くなり、また脂肪や糖質の摂りすぎから肝臓で合成されるコレステロール量も多くなりました。栄養が充分に摂れるようになると、コレステロールも体内で多く作られるようになり、これが健康増進につながる結果となりました。
不足していたコレステロールが補われているときには健康面でプラスの結果となっていましたが、過剰になりすぎると今度は動脈硬化を引き起こし、血管が詰まって亡くなる人を圧倒的に増やす結果となりました。死因の統計上は同じ脳血管疾患であっても、以前はコレステロール不足から脳血管が弱くて切れたことが原因であり、今では多すぎて脳血管が詰まることが原因であり、どちらにも栄養状態が大きく影響していると指摘されています。