学習障害96 有酸素運動で神経細胞を増やす

運動をすることは学習能力を高めることにも役立ちます。一般には運動によって血流をよくして、脳に運ばれる酸素と栄養素を増やす効果があるとされています。脳細胞のエネルギー源はブドウ糖だけで、このブドウ糖を細胞の中のミトコンドリアでエネルギー代謝を行うためには酸素が必要です。血液中で酸素を運んでいるのは赤血球で、ブドウ糖は血液中に血糖として溶け込んでいるので、血流がよくなれば、それだけ早く脳でエネルギーが多く作られることになり、このエネルギーを使って脳細胞が盛んに働くようになります。
運動の効果は、それだけではなくて、神経細胞のニューロンを増やす効果もあります。ニューロンは細胞本体と軸索、シナプスで構成されています。軸索は信号を流すコードに当たり、シナプスは次のニューロンに信号を伝える端末となります。神経細胞(ニューロン)の数は大脳で約160億個、小脳で690億個とされていて、その数は生後2か月以降では増えないとされてきました。しかし、有酸素運動を行うと記憶を司っている海馬で新しい神経細胞が増えることが明らかにされました。
どの程度の運動をすればよいのかということですが、負担がかかるような運動は必要ありません。運動の強度はメッツ(METS=metabolic equivalents)という単位で示されていて、1メッツは安静時の活動量(生命維持に使われるエネルギー量)です。この何倍の強度となっているかが示されていて、普通に歩くことで3メッツ、少し早歩きで4メッツとなっています。目標とするのは3メッツの強度、つまり歩くだけです。有酸素運動の効果が現れるのは歩き始めてから10〜15分ほどなので、少なくても20分、できれば30分以上が目標となります。
この程度の運動でよいのかという疑問があるかと思いますが、心臓病の手術をした人が回復を早め、再発をしないようにするために実施される心臓リハビリテーションでは3メッツ以上の運動をしないように注意されます。それだけの運動でも心臓は充分に働き、酸素も充分に全身に運ばれ、そして神経細胞の新生にも効果があることが知られています。