子どもが食べにくい野菜というと、以前はピーマンやトマトが代表的なものでした。家庭だけでなく、学校給食でも残されることが多かったのですが、今では残されることが少なくなりました。このことを「私たちの勝利」と話していた学校栄養士もいました。もちろん、食べにくいものを、なんとか食べてもらえるように努力したということも認めますが、それ以上に大きかったのは品種改良です。おいしく食べてもらうための品種改良は野菜で特に盛んに行われました。
今回はトマトを例としてあげますが、以前のトマトは「トマト臭い」と言われる独特の青臭さがありました。これはトマトの種子に含まれるトマチン、フロスタノールといった苦みや消毒臭とも呼ばれる成分のせいでした。熟すほど少なくなり、畑で完熟したトマトにはトマトの青臭さは感じにくくなっていました。
なぜトマト臭かったのかというと、以前は店頭では半分赤くて半分青いものが当たり前に売られていました。青いといっても本当に青かったわけではなくて、緑色のことです。野菜は緑色を青色と表現しています。半分青かったのは熟す前に収穫して、店頭で並べているうちに、また家庭に持ちかえってから赤くなっていくというものでした。完熟で収穫すると輸送中に傷ついて売りにくくなることから仕方なく熟す前に収穫していました。
この常識を覆したのが1985年に販売された新品種の桃太郎です。熟す前の状態で全体がピンク色で甘いということでの命名です。今では“完熟トマト”のキャッチフレーズですが、登場したときには“甘熟トマト”が使われていました。完熟ではなく、完熟していないのに赤くて(ピンク色)甘い品種で、糖度は6度以上になっていました。トマトには特有の酸味があり、酸味が強いと甘みが感じにくくなるので、酸味も抑えられました。
そのためにトマトソースが作りにくく、シェフの中には旧来品種のトマトを探してソース作りをしている人もいます。完熟のトマトというと、今ではプチトマトが主流ですが、価格面で学校給食では使いにくいという点があります。しかし、酸味を超える甘みがあり、ビタミンも豊富です。赤い色をしているほど抗酸化成分のリコピンが多く、その点でも強く求められるようになりました。