新型コロナウイルスの感染拡大は、日常生活に影響を与え、健康づくりにも影響を与えることから、「日常を取り戻す」ことが望まれています。できるだけ早く“元に戻る”ことを目標として、さまざまな対策が取り組まれているわけですが、この場合の“元”が、どの状態を指すのかが議論の対象となっています。普通に考えれば、新型コロナウイルスが感染拡大する前ということになるのでしょうが、感染が終息したとして、感染者が発見される前のマスクも必要がない、消毒もいらない、3密を避けなくてもよいという状況になれば、それでよいということではないはずです。
日本人の健康度は、終戦直後の1945年(昭和20年)には低い状態で、いわゆる先進国の中では下にランクされていました。日本人の平均寿命が50歳に達したのは1947年(昭和22年)のことで、その当時にアメリカでは60歳、北欧では70歳に達していました。そこから環境衛生、疾病予防に積極的に取り組んだことから、今では男女平均で寿命は世界のトップまで駆け上りました。
ここまで頑張って押し上げてきたのに、コロナ禍のために外出自粛で運動できない、食べ過ぎ・飲み過ぎ、健診の受診率も病院の通院率も大きく低下するといった状況です。せっかくの上り調子が下がってしまっている状況で、感染前の段階に戻しても、これまでの健康寿命延伸は望めないことになります。
病気から回復した人が、再び病気になったり、検査数値が悪くなると「元に戻った」ということをよく口にします。元に戻るべきは病気の状態ではなくて、その前の健康な状態です。それなのに元に戻ったという間違った発言になるのは、実際には健康になったと安心できるような状態に戻っていなかったことに気づかず、これまでと同じ生活を送ってしまったからの結果だと考えられます。
新型コロナウイルス感染の状況を踏まえて戻るべき“元”は、もっと健康度が高かった状況、つまり平均寿命が延びていて、生活習慣病が少なかった時期です。しかし、それは昭和30年代後半であって、そこまでは食生活一つをとっても戻るのは困難です。となれば、これまで以上の健康度が得られるように、高い状態を目指して積極的な健康づくりに、地域をあげて取り組むべきだということです。