ウォーキングによる健康づくりについて厚生労働省で会合が行われたときのこと、冒頭に言われて今でも印象に残っているのは「健康な患者」「健康な要介護者」という言葉でした。会合の主催は健康局で、全国の健康の総元締めのようなもので、健康の定義にも関わっているところです。
健康という言葉は、病気の対義語として使われることがあり、病気になって治療を受けている人が患者です。また、高齢になって病気だけでなく身体機能が低下することによって介護が必要な状態になると要介護者となります。この伝から言うと、健康な患者や健康な要介護者という表現に違和感を抱く人は少なくありません。前出の会合でも、この表現がされたときに会場内がざわつきました。
WHO(世界保健機関)は、「健康とは身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病のない状態や病弱でないことではない」と定義しています。厚生労働省も同様の考えを示しています。病気や病弱、身体機能が低下した状態は、健康ではないということになりますが、では「健康な患者」というのは何を指しているのかというと、まだ自力で、もしくは医療の手助けを得て、健康な状態に戻ることができる人のことです。
一つの病気が発見されたときに、それを克服しようと医療の助けがあったとしても自分の力で取り組もうとすることが求められています。ただ、薬に頼り、一つの病気に関連して他の病気が出てきたら薬を増やす、というような他力本願ではなく、“自力本願”で健康づくりに取り組む人を指しています。医療を実施するには、多くの医療スタッフが必要で、見た目は健康な人と変わらない、まだ自力回復が可能な人なら、入院患者であっても大きな手間はかかりません。それが複数の病気が出て生活機能にも影響がある、足腰が弱り、体力低下しているという状態では大きな手間がかかってしまいます。
これは要介護者についても同じことが言えますが、まだ自力回復できる段階で、できることなら未病の状態で、つまり血圧が高い、血糖値が高いという段階で、高血圧症、糖尿病、心臓病にまで進んでいない状態で健康づくりに取り組むことが求められています。その方法として注目されたのが高血圧、高血糖、脂質異常症(高中性脂肪血症、高LDLコレステロール血症など)の数値を下げるのに効果がある有酸素運動であり、比較的簡単に始められて、足腰の鍛錬にもなるウォーキングだったのです。