国立高度専門医療研究センター6機関(国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センター)が連携して、研究成果として「疾患横断的エビデンスに基づく健康寿命延伸のための提言(第一次)」を公開しています。提言のエビデンスの解説(第1回)を紹介します。
健康は、生物学的要因(遺伝的要因、性、年齢など)や個人の生活習慣だけでなく、個人の社会経済的状況や居住する地域の社会的・物理的環境によっても決定されます。これらの要因を総称して、「健康の社会的決定要因」といいます。
本提言で取り上げられている生活習慣や健康行動についても、健康の社会的決定要因という視点から理解することが重要です。つまり、個人の生活習慣や健康行動だけに不健康の原因を求めるのではなく、不健康の根本原因となっている要因を踏まえた上で問題解決に当たることが、健康寿命延伸のためには欠かせないということです。
社会経済的状況は収入や教育歴などの情報を使用して定義され、社会経済的状況が低くなるにつれて不健康のリスクが上昇していく傾向にあることが報告されています。例えば、日本を含むアジア10か国での29研究(最大22年間の追跡)のメタ解析では、教育年数が短い群における死亡リスクは教育年数が長い群と比較して1.4倍であることが報告されています。また、社会経済的状況の指標の一つである相対的剥奪(同じような属性を持つ人々に比べて相対的に豊かではないと認知される状況)と死亡率の関連を検討した日本の高齢者を対象とした研究では、男性において、相対的剥奪と死亡の関連が報告されています。
世界の116のコホート研究を対象とした研究では、社会経済的状況が低い場合に虚血性心疾患、脳卒中、心血管疾患のリスクが高いことが示されています。例えば教育年数と虚血性心疾患の関連を検討した20研究の結果をメタ解析すると、教育年数が短い場合、男性で1.3倍、女性で1.7倍リスクが高いことが報告されています。また、教育年数が短い場合に高血圧のリスクが2.0倍高いことを報告した世界の51研究のメタ解析や、社会経済的状況が低い場合に糖尿病のリスクが1.3〜1.4倍高いことを報告したメタ解析やうつ症状が1.8倍多いことを示したメタ解析があります。さらに、日本の高齢者を対象とした研究で、社会経済的状況が低いほど認知機能低下のリスクが高いことを示した研究もあります。