発達栄養学131 栄養素だけを食べているわけではない

食事は生命維持に欠かせないものであるのは間違いないことですが、生命維持のためだけに食べているわけではなく、健康の維持のため、快適な生活を過ごすために食べているのであり、今の健康状態、調子のよい状態は食事によって保たれています。もしも、体調面でよくないところがあるとしたら、それは食事の内容が影響しているということです。
「人間は食べるために生きているのか、生きるために食べるのか」との哲学的な問いがあります。一般的な正解は「生きるために食べる」ということですが、食べるために生きているという考えも必要なことで、おいしく食べることは重要です。食べたものは、ただ胃で消化され、小腸で吸収されるということだけなら、味も香りも色彩も食感も関係がないはずです。しかし、おいしく、楽しんで食べるためには五感(味覚、視覚、嗅覚、聴覚、触覚)を刺激する調理が大切で、生きる喜びを感じて、健康で心豊かな生活の一環としての食事の役割もあります。
栄養摂取だけを考えるなら、食事の温度も関係がなく、家庭での手作りでなく、買ってきたものを温め直すことなく、そのまま出してもよいはずです。そのまま出すということでは、食器においしそうに盛っても、スーパーマーケットやコンビニエンスストアのパックに入ったままで食卓に出しても変わりがないかもしれません。ところが、実際にはおいしく感じる環境を整えた場合と、それでない場合とでは血液の状態を調べてみると吸収された栄養素の量に差があることが確認されています。
まったく、同じ料理でも色を変えただけで(食欲が湧きにくい青色の食用色素で着色)、消化、吸収が低下して栄養素が減少していました。これ以外にもマイナス要素が加わるほど、栄養摂取が低下することから、おいしく感じる料理を提供することが重要であることを知っておいてほしいのです。