ポストコロナ「オンをオフで返す」2

「恩を仇で返す」というのは、あまりよい印象で使われる諺(ことわざ)ではないのですが、これをもじった「オンをオフで返す」となると、軽妙さを感じることにもなります。精神的に余裕があるベテランや高齢者の中には、正面から全力でぶつかってきた相手に対して、力が抜けてしまうような反応をする人がいます。その場を和ませたり、力ずくの対戦を心の余裕をもって交わらせるようにしてくれます。
これはプラスの受け止め方であって、同じことでも受け止め方で内容が違ってきます。言われたことがなかなかできない人に対して、それをズバリと指摘したらギスギスするところを“大器晩成”という言葉を使った瞬間に和んだ雰囲気にもなります。そういったゆとりのあることならよいのですが、ベテランになるほど正面から受け止めずに、はぐらかすようになりがちです。これは「自己利益の法則」と呼ばれるもので、これを知ったのは認知症の予防・改善にスポーツを活かす方法について論議をしているときでした。
あまりに頑固に新たな提案を認めようとしない人に対して、それこそ認知症ではないのかと感じ始めていたときに、専門医から「自己利益の法則」という言葉が飛び出て、それで納得したというか、こちらも正面からぶつかることをやめようと思ったものです。「自己利益の法則」は認知症の特性を示す場面で使われています。
認知症になると自分にとって不利なことは絶対に認めず、平気で嘘をついたり、言い訳をするということで、これに法則という言葉を使っているのは認知機能の低下によって相手に対して共感できなくなったり、嘘を嘘と感じなくなくなり、自分の能力が低下していることへの自己防衛として、当たり前のようにやってしまうことを指しています。
この「自己利益の法則」を思い出したのは、オリンピック開催を前にして緊急事態宣言をしたときに記者の質問に対して、首相がはぐらかすような返答を繰り返しているシーンを見ているときでした。