ポストコロナ「腐った鯛」2

「腐っても鯛」という本来の諺(ことわざ)から話を始めますが、これは第三者的に言うべきことで、自分のことを指して言ったり、目の前にいる“鯛”と比較される人に直接言うようなことではありません。あなたは鯛だと言われて持ち上げておいて、それが腐っていると言われたが落差が大きいだけにショックも大きすぎます。実は、海外から学びにやってきた方に、本人は褒め言葉のつもりで「あなたは腐っても鯛です」と言われたことがあります。よく日本語の意味がわかっていない方のことで、正しい日本語の使い方を教えていない側に問題があると考えて、そのときはにこやかにかわして済ませたものです。
「腐っても鯛」というのは、いつの時代にも鯛としての存在であることが重要ポイントで、時代が変わったら鯛のポジションでなくなってしまうものを鯛だと考えてはいけないこということで、その例としてアクリル板をあげています。新型コロナウイルスに限らず、あらゆる感染症を防ごうとしたら対面している人との間にゲートを設けるのは正しい方法です。透明であれば相手の顔も表情も確認できるものの、前面を覆われていると声が届きにくくなって、かえって大声で話すために飛沫が飛び散って感染しやすくなるのではないかと不安にも思ってしまいます。
コロナが収束して、海外のように自粛解除となったらアクリル板は必要がなくなるはずのものです。今は必要であるからと販売に力を入れるのはわからないではないのですが、本業を忘れてまでものめり込むものなのかというと疑問が残ります。売れているときに、そのようなことを言っても聞いてもらえないのですが、そんなときには過去の例を話すようにしています。その第一はレコード針です。
レコード針の性能で引き出せるレコードの音が決まってくるので、高性能のレコード針の開発に必死に取り組んだ方を知っています。音楽雑誌の依頼で取材をしたこともあるのですが、そのときにはCDの開発が順調に進んでいて、そう遠からずレコード針はなくなるだろうと考えられていた時代のことです。結局は“案の定”の結果でした。
カセットテープも高性能のメタルテープが開発され、ビデオテープも開発ラッシュが続きましたが、時代がDVDになり、今はBD(ブルーレイディスク)の時代になりました。MD(ミニディスク)は小型で高性能でしたが、フラッシュメモリーの登場で地位があやうくなり、今ではスマホでダウンロードして音楽を聞く時代になって役割はほぼ終わりました。
時代の先を読んで取り組まないと、まさに「腐っても鯛」のはずだったのに気づいたら「腐った鯛」だったということになってしまうということを肝に命じるために「腐った鯛」とあげています。