コロナ後を踏まえた今回のテーマの「寄るな大樹の陰」は、「寄らば大樹の陰」をもじった言葉です。陰には日陰や物陰といった意味があり、大樹の陰に隠れると姿が見えなくなるので安全であり、風雨をしのぐことができます。それと同じことで、大きな組織や力がある人のそばにいると安泰でいられるということを指しています。“寄らば”というのは、寄るならばという意味で、もしも寄りかかるとすれば大樹の陰がよいということで、何も大樹に頼れと言っているわけではないのです。
頼る相手を選ぶことは大切ではあるのですが、実際には選ぶことなく、いきなり大樹に頼って進めようとするのは、よくあることです。これまでなら、それでもよかったのかもしれませんが、新型コロナウイルス感染のような厳しい社会になると、大樹が倒れてしまうことにもなりかねません。寄れば必ずよいことがあるというのではなく、いつまでもよいことは続かないとの危機意識を持って、常に生き残りの方法を考えて行動すべき時期が訪れています。
その例としてあげたいのは“歩育”です。歩育は日本ウオーキング協会が進めている子どもの健康づくりとともに神経の発達、脳機能の発達も目指し、親子関係を強めることも視野に置いた活動です。歩くという当たり前に思えるようなことも、実はうまくいかない子どもが多く、発達性協調運動障害の子どもが10%は存在しているとされます。発達性協調運動障害は単なる不器用ではなく、当たり前のはずの歩行姿勢が保てない、階段が登り降りできない、すぐに転ぶ、転ぶときに身体をかばえないということも起こっています。
歩行と脳機能の研究は、高齢者については以前から進められていて、認知症の予防や改善の効果も認められています。そのための歩き方の研究も進んでいて、普通歩行と速歩を繰り返すことによって認知機能を高めることが確認されています。
こんなにも簡単で、安上がりの方法であるのに、ウォーキングの大イベントであるウオーキング大会(日本ウオーキング協会が主管)は全国の自治体で新型コロナウイルス感染対策のために中止が相次いでいます。歩育はウオーキング大会で実施するという大樹の陰での開催だったために、これも中止せざるを得なくなっているのです。