脳細胞に取り込まれたブドウ糖は、細胞内でエネルギーを作り出す小器官のミトコンドリアに取り込まれます。ブドウ糖はエネルギー源であって、これを材料にしてミトコンドリアの中でエネルギーを作り出す必要があります。そのために必要なのが、ブドウ糖をミトコンドリアに取り込むと同時にミトコンドリアの中での代謝を高める働きがあるαリポ酸です。α‐リポ酸は体内で合成されるものの、20歳をピークに合成量が減り続けます。合成量の不足が年齢を重ねるにつれて代謝が低下していく原因となっています。そのαリポ酸が不足した状態では、ブドウ糖のエネルギー代謝が充分に行われなくなり、これが脳細胞のエネルギー不足にもつながっていきます。
ミトコンドリアの中で起こるエネルギー代謝には酸素が必要で、多くの酸素を取り込む運動は脳細胞の働きの維持と向上に重要な要素となります。
日本神経学会から『認知症疾患治療ガイドライン』が発表されていますが、認知症の予防効果があることとしてウォーキング、サイクリング、階段の上り下りなどの有酸素運動があげられています。
運動をすることによって、生理活性物質が増えることが確認されています。運動をすることによって増える生理活性物質としては、ホルモン(副腎皮質刺激ホルモン、成長ホルモン、テストステロン、エンドルフィン)、神経伝達物質(アセチルコリン、ドーパミン、トリプトファン)、神経栄養因子(BDNF)、酵素(AMPキナーゼ、KAT)、生理活性物質(t−PA)、血管新生因子(VEGF)が知られています。これらの物質は運動時に安静時の1.2〜1.5倍も増えていて、脳内でも同様に増えていると考えられています。
アセチルコリンには脳で記憶を司る海馬の神経細胞新生促進があり、神経細胞が増えることによって記憶力を改善させる作用があります。神経栄養因子のBDNFにも同様の作用が認められています。ドーパミンは意欲や活力を向上させる脳内ホルモンで、アミノ酸のトリプトファンには神経伝達物質のセロトニンを増やす作用がありますが、セロトニンは抗うつ作用があることから抑うつ状態を改善させる作用があります。