「膳は急げ」は食事を急いで食べる“早食い”を推奨しているわけではなくて、お膳文化という日本人の素晴らしい伝統を意識して健康的な食生活を見直してほしいという気持ちを表した造語です。自分に適した量の食事は、腹加減で覚えている人もいれば、専門家の食事指導を受けて教えてもらった量にしようという人もいて、人それぞれです。それぞれの人に適した食事量は厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」で示されています。最新版は2020年版で、5年ごとに新版が発表されています。この基準の中で示されているのは分量(g)ではなく、エネルギー量(kcal)です。身長、年齢、性別、活動量から適切な体重を割り出して、そこから適正なエネルギー量を計算する方法が示されています。
重量で示されているなら計量すれば、わかりやすいのですが、エネルギー量は加工食品とは違って、生鮮食品ではわかりにくいものです。摂取すべきエネルギーは糖質、脂質、たんぱく質だけに含まれていて、1gあたりのエネルギー量は糖質とたんぱく質が約4kcal、脂質が約9kcalと目安が示されています。しかし、食品は糖質、脂質、たんぱく質が合わさったものが多くて、その割合は食品成分表を見なければわかりません。それだけに、どれくらいの量を食べれば適切なのかは、実はわかりにくいことなのです。
そこで私たちは病院栄養管理の世界から始まった100kcal単位でエネルギーバランスをとって、これを食品に当てはめる方法を採用して、それぞれの人に必要なエネルギー量に合わせて、バランスのとれた献立を自分で簡単に作ることができる方法を、さまざまな講習に使っています。これを普及する団体(日本100キロカロリーダイエット協会)を病院の管理栄養士、生理学研究者、食品開発担当者などと設立して、初代の会長は日本メディカルダイエット支援機構の理事長が務めていた関係もあって、今も普及に取り組んでいます。
100kcal単位の食事の基本は、1回の食事で食べる量が決められていることで、これはお膳の発想そのものです。病院や福祉の給食も、お膳の発想で、少なくとも大皿から自由に取って食べるようなことはしていません。ずっとお膳式の食べ方をしろと言っているのではなくて、ここで覚えた自分に適した食事量を、大皿から取るようになっても節度をもって調整できるように急いで身につけてほしいことから、「膳は急げ」という造語を掲げて話を進めてきました。