「人は血管とともに老いる」というのは、あまりに有名な言葉で、引用に次ぐ引用であっても、老化の原因は血管の老化だということは、すぐに気づくことだと思います。75年前の終戦直後の平均寿命は、男女ともにやっと50歳に達しました。それが一気に世界のトップに駆け上がったのは血管が丈夫になったことと関係しています。
脳卒中で、それほどの年齢でもないのに亡くなる人が多かったのは、血管が弱かったからです。日本人は肉食が少なくて、そのために全身の細胞壁の材料であるコレステロールが不足していました。血管を丈夫にするのは動物性たんぱく質も必要ですが、同時にコレステロールも摂る必要があります。
コレステロールというと、一時は(部分的には今でも)動脈硬化の要因であり、悪玉コレステロールによって血管が詰まることが血管性の疾患(脳梗塞や心筋梗塞など)の原因とされてきました。コレステロールは細胞の材料のほかにホルモンの原料、脂肪を分解する胆汁酸の原料でもあって、健康を維持するために必要なものです。それなのに“悪玉”という不名誉な名前がつけられたのは、LDLコレステロールという全身にコレステロールを配っていく低比重リポ蛋白が多くなると動脈硬化が発症しやすくなるからです。
戦前・戦中・戦後に多かった脳血管疾患、心疾患(心臓病)はコレステロール不足で血管が弱くて切れていたために起こっていましたが、現在はコレステロールの過多で血管が詰まって起こっているということで、同じ病名の分類であっても原因は逆になっています。
血管を丈夫にするために動物性たんぱく質とコレステロールを摂取しても血管にダメージを与える高血圧症、糖尿病、脂質異常症(高中性脂肪血症、高LDLコレステロール血症)があったのでは、血管の健康度を高め、中でも脳の血管を丈夫にして血流低下を防ぐことは難しくなります。これらの疾患には脂肪が多く関係していることから、講演などでは「人は血管とともにオイル」というダジャレのような言葉を使って、注意喚起をしているのです。