すべての歯を使って食べ物をよく噛んで、消化しやすい形にしてから飲み込む一連の動作は咀嚼(そしゃく)といいます。
口から入った飲食物は、口腔の中で唾液腺から分泌された唾液と混じり、咀嚼によって細かく刻まれ、咽頭を経て、食道を通り、胃へと運ばれます。咀嚼は、歯を使って食べ物を消化しやすい形にするためのもので、門歯(前歯)で粗く噛み、奥の臼歯ですり潰してから嚥下されます。嚥下は食べたものを飲み込むことを指します。
咀嚼というと食べ物を噛み砕くことによって胃腸での消化・吸収を助ける働きが初めに注目されますが、咀嚼をすると歯の歯根膜やあごの咬筋から中脳にある咀嚼中枢に神経伝達として伝わり、神経ヒスタミンが分泌されます。神経ヒスタミンには満腹中枢を刺激して、満腹感が得やすくなります。それによって食べすぎを抑制することができます。また、神経ヒスタミンには脂肪細胞から分泌される食欲を抑えるホルモンのレプチンも増えることによって、余計な食べすぎを抑えることができます。
アメリカの研究では、咀嚼の時間を普段の1.5倍にすると、10%ほど少ない食事量でも普段と同じ満腹感が得られると報告されています。しかし、噛む回数は全体的に少なくなっています。
咀嚼のためには、前歯で粗く7〜8回噛み砕いてから、奥の臼歯で10回以上細かくするように噛むことを本来は指しています。以前は1口について30回以上噛むことが推奨されていました。しかし、全体的に軟らかな料理が増えて、野菜の中でも食物繊維が多くて硬いものが避けられる傾向から、20回ほどの咀嚼で充分な食事内容になっています。しかし、それは正常な状態とはいえません。
2歳の幼児は噛み方を教えていなくても、1口あたり17回は噛んでいるといいます。2歳児よりも硬いものを食べているなら子どもでも大人でも20回以上は噛んでもよいはずです。しかし、実際には多くても7~8回で、軟らかなファストフードやハンバーグ、カレーライスなどだと4~5回くらいと粗噛みの段階で飲み込んでいる人が多くなっています。これでは胃液の少なさを唾液で補うことができずに、食品に含まれる栄養素が分解されにくいために吸収も悪くなりかねません。このような食べ方だと、よく噛んだ場合に比べると10%ほども栄養吸収率が低下するとの報告もされています。