いろは歌留多の“い”といえば、「犬も歩けば棒に当たる」ということに一般的にはなっていますが、これは江戸歌留多で、大阪では「一を聞いて十を知る」、京都では「一寸先は闇」と、三者三様です。もとは「色は匂へど散りぬるを、我が世誰ぞ常ならむ、有為の奥山今日越えて、浅き夢見し酔ひもせず」という涅槃経の仏教精神を和文で表したもので、いろは歌留多は京都で生まれました。
そこから大阪、名古屋、江戸と伝わっていったということで、京都版を中心とすべきなのでしょうが、全国的に知られているのは江戸版のほうです。
今回のテーマの「六十の三つ子」は大阪版の“ろ”の言葉で、中京版でも同じものが使われています。「六十の三つ子」は、老齢になると幼児のような言動をすることを指していて、無邪気になったり、聞き分けがなくなるというのは、自分のことだけでなくて、家族を思い浮かべても納得できるところがあります。三つ子は3歳児ではなくて、数え年なので2歳です。一方の60歳も、江戸時代のことなので60歳といえば長生きで、今で言えば80歳でもおかしくありません。
これだけ平均寿命が延びているのに、高齢者の年齢はいまだに65歳です。この年齢が定年退職の基本であり、年金支給の基本ともなっています。今は65〜74歳は前期高齢者、75歳以上が後期高齢者となっていますが、高齢者を75歳以上にしようという提言が日本老年学会と日本老年医学会によって2017年に発表されました。これは今の高齢者が若返ってきていることが根拠になっています。あまりに早い高齢社会に対応するために、年金の支給時期を遅らせる意図が隠れているのではないかとも言われています。
74歳までは“三つ子”と言われるほど衰えてはいないということなのでしょうが、健康寿命は平均寿命よりも男性で9年、女性で12年も短く、認知症が700万人(高齢者の5人に1人)という時代には、いつ三つ子のように手間がかかるようになってしまうかわかりません。65歳以降の健康状態は50歳代の健康状況が大きく影響しているだけに、少しでも早い健康対策を訴えているのですが、なかなか届いていないのが実態です。
(日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人)