糖尿病

1.糖尿病の危険性

1)糖尿病は国民病の代表

「糖尿病は太っている人がなる病気」というイメージが抱かれがちです。確かに、糖尿病は食事の摂りすぎ、運動不足が大きく関わっているために、太っていることで発症のリスクが高まるのは事実です。
また、糖尿病患者の約80%は肥満か肥満傾向であるとの調査結果もあります。しかし、糖尿病は、やせているから、なりにくいとは決していえない病気です。
糖尿病患者は年々増え続け、今や国民病の代表ともなっています。
厚生労働省の国民健康・栄養調査(平成9年)の調査では、“糖尿病が強く疑われる人”(糖尿病有病者)は約690万人、“糖尿病の可能性を否定できない人”(糖尿病予備群)は約680万人で、合わせた数も約1370万人となっていました。
厚生労働省の糖尿病実態調査(平成14年)では、“糖尿病が強く疑われる人”は約740万人、“糖尿病の可能性を否定できない人”は約880万人で、合わせると約1620万人にも達すると推定されていました。
それが平成18年の結果では、“糖尿病が強く疑われる人”は約820万人、“糖尿病の可能性を否定できない人”は約1050万人で、合わせると約1870万人にも達すると推定されていました。
そして、最新の結果(平成24年)では、“糖尿病が強く疑われる人”は約950万人、“糖尿病の可能性を否定できない人”は約1100万人で、合わせると約2050万人にも達すると推定されています。いかに 短い期間で大幅に増えていることがわかります。

2)問題は診断されても治療していないこと

厚生労働省が健康長寿の実現などを目指して推進した『健康日本21』では、2010年には糖尿病患者(糖尿病が強く疑われる人)を1000万人に抑えるという数値目標が掲げられていました。平成23年に発表された『健康日本21』の最終評価によると、直近の実績値(推計)は約890万人と、目標値を下回ったものの、増加する結果となりました。
また、『健康日本21』では糖尿病合併症の減少(合併症を発症した人の数)についても発表されており、糖尿病合併症で最も多い糖尿病性腎症によって新規に透析が導入された人の数では目標値として1万1700人を掲げたものの、直近の実績値では1万6414人と大きく増加する結果となりました。
この結果は、糖尿病患者が治療を受けていないことが大きく関係しています。推定されている糖尿病患者のうち、どれくらいの人が治療を受けているかを調べた国民健康・栄養調査(平成24年)の結果では、受診しているのは男性の65.9%、女性の64.3%で、徐々に増えているものの、まだ充分とはいえません。
このように糖尿病になっていても通院しての治療を受けていない人が圧倒的に多いのは、糖尿病は初期の段階では自覚症状がない病気だからです。
糖尿病の治療を受けている人のうち約85%は、健康診断によって糖尿病であることが指摘されています。それだけに糖尿病は気づきにくく、わかったときには病気が進行して初期段階と同じようには治せない状態になっていることがあります。
糖尿病は血液検査によって血糖値を測定すれば診断できる病気です。そのため、まずは血液検査を受けて、自分の体の状態を知ることから、その対策が始まります。

3)糖尿病は尿に糖が混じるだけではない

糖尿病は膵臓から分泌されるホルモンであるインスリンの不足や、インスリンが分泌されているにも関わらずインスリンの作用が低下しているために血糖値が上昇して起こる病気です。後者はインスリン抵抗性と呼ばれています。
インスリンには、血液中のブドウ糖を筋肉細胞などに取り込んで、エネルギー源として利用する働きがあります。ところが、インスリンの分泌量の不足や、細胞がブドウ糖を取り込む力が弱くなると、細胞内に充分にブドウ糖が取り込まれにくくなり、ブドウ糖が細胞の外側に多い状態となります。そして、細胞外のブドウ糖は血液中に戻り、一定濃度以上になると尿に多く混じって流れ出てくるようになります。
その状態から糖尿病という名がつけられました。「尿中にブドウ糖が多くなるのは、不必要になったブドウ糖が尿として捨てられているので問題がない」と考える人も少なからずいます。しかし、大切なエネルギー源であるブドウ糖が体の中で充分に使われていない状態になっていることから、細胞が栄養不足になっていると言うことができます。
糖尿病の指標になる血糖値は、血液中にどれくらいのブドウ糖があるかを示す数値です。血糖は、血液中のブドウ糖のことです。
糖尿病を判断するために、検査紙に尿をかけて色の変化から尿糖の割合を調べる検査法があります。これで調べた尿糖が糖尿病の発見のきっかけとなることも多いのですが、診断は血糖値によって行われます。というのは、尿糖検査紙によってわかるのは血糖値が160mg/dl以上となったときで、これを下回っている場合には、高血糖状態になっていても、ブドウ糖が尿中に多く混じることがないからです。

2.糖尿病の判定

1)知っておきたい糖尿病の判定基準

糖尿病の血糖値による判定基準は、一般社団法人日本糖尿病学会によって定められています。それによると、以下の、いずれかを満たしているものが糖尿病と判定されます。
糖尿病の判定基準

  正常域 境界域 糖尿病域
早朝空腹時血糖値 110mg/dl以下 110~126mg/dl 126mg/dl以上
食後2時間血糖値 140mg/dl以下 140~200 mg/dl 200mg/dl以上
ヘモグロビンA1c 4.3~5.8% 5.8~6.5% 6.5%以上

正常値と糖尿病域の間が、いわゆる境界域で、空腹時が110~126mg/dl未満、食後2時間血糖値が140~200mg/dl未満となっています。
 血糖値は血液中のブドウ糖濃度のことで、血液1dl(デシリットル)当たりのブドウ糖の量がmg(ミリグラム)で表されます。健康な人は早朝の空腹時の血糖値は100mg/dl以下で、食後でも160mg/dlを超える例はほとんどありません。
 ヘモグロビン(Hb)A1cは、赤血球の中にあるヘモグロビン(血色素)のうち、ブドウ糖と結合しているグリコヘモグロビンの割合をパーセントで表した指標です。グリコヘモグロビンはブドウ糖と結びつきやすく、血液中のブドウ糖が多くなるほどヘモグロビンA1cの割合が高まっていくため、1~2か月間の血糖値の状態を知ることができます。健康な人のヘモグロビンA1cは4.3~5.8%とされています。
 血糖値は食事内容や体調、ストレスなどによって常々変化しています。健康診断の数日前からブドウ糖が多く含まれる糖質の摂取量を少なくすることで、血糖値を低めに抑えることができます。しかし、ヘモグロビンA1cを測定することで、長期間の血糖値が、どのような状態であったのかを知ることができるため、糖尿病の重要な指標とされています。

2)糖尿病は一般には2型を指す

糖尿病は、1型糖尿病と2型糖尿病に大きく分けられます。
 1型糖尿病は、膵臓でインスリンを合成するランゲルハンス島のβ細胞が破壊され、インスリンの分泌が大きく減るタイプで、インスリンを外から与える治療が不可欠となっています。破壊の原因としては、遺伝のほかにウイルス感染や、本来は自分の体を守るための免疫細胞のリンパ球が誤って膵臓を攻撃する自己免疫が考えられています。
 1型糖尿病は子供の糖尿病に多く、発症率は5%ほどで、残りの95%ほどは2型糖尿病が占めています。インスリンを用いなくてもよい場合と、インスリンが必要な場合に分けられます。2型糖尿病はインスリンの分泌量の減少や、インスリンが分泌されても反応が悪いもので、その原因としては食べすぎ、飲みすぎ、運動不足、肥満、ストレスのほか、インスリンに反応してブドウ糖の取り込みを進める酵素の働きをよくする作用がある亜鉛やクロムの不足などの生活習慣に起因するものがあげられます。
 飲食によって摂る糖質が多くなると、血液中に含まれるブドウ糖が多くなり、ブドウ糖に反応して分泌されるインスリンの分泌量も増えていきます。膵臓は疲労症状が現れにくい臓器であるために、ブドウ糖が入ってくる間は限界まで働き続けます。そして、限界に達すると急に機能が低下して、インスリンの分泌量も大きく低下していきます。この状態は、改善されにくいため、糖尿病の治療を難しくしています。

3.ストレスで血糖値が上昇する

ストレスを受けると自律神経の交感神経の働きが活発になり、ホルモン分泌が乱れやすくなります。ストレスは体にとって本来は危機的な状態で、これを脱するために、すぐにエネルギーとなるブドウ糖を血液中に急激に増やすようになります。
 筋肉や肝臓にはブドウ糖がグリコーゲンという糖の固まりに形を変えて蓄えられており、血液中に多くのブドウ糖が必要になったときには、これを分解して血液中に放出して血糖値を上昇させます。
 ストレスは血糖値を上昇させるわけですが、血糖値が高まったあとに盛んにエネルギー消費が行われなければブドウ糖はあまり使われず、血糖値は高まったままの状態になります。余分なブドウ糖は、肝臓の中で中性脂肪に合成されますが、この中性脂肪はエネルギー源として脂肪細胞の中に蓄えられていきます。
 ストレスを感じていると、結果として筋肉が減り、脂肪が増えることにもなるわけです。ストレス太りは、ストレス解消のために食欲が増してしまうことのほかに、このような理由もあげられます。

4.怖いのは糖尿病性合併症

「糖尿病で死ぬことはない」とは、検査を受けて、高血糖を指摘された人が、よく口にする言葉です。こういった感覚が、受診を遅らせる原因となっています。
 糖尿病になったからといって、それだけで亡くなることはありませんが、年間の死亡原因を見ると、糖尿病は第10位前後であり、年間に1万4000人以上が亡くなっています。その多くは合併症によるものです。
 糖尿病の合併症のうち、特に発症が多い眼の網膜症、腎症、神経障害は三大合併症と呼ばれています。糖尿病の合併症で亡くなる人の多くは腎症によるもので、これは細くて弱い細小血管がもろくなることによって起こります。高血糖状態が5~10年も続くと、細小血管が高濃度のブドウ糖にさらされ、血管細胞内にブドウ糖が多く入り込み、新陳代謝が弱まっていきます。これによって血管の弾力性が失われていくようになります。
 これは古くなったゴム管がボロボロになっていくのと似た状態であり、ボロボロになったゴム管が元には戻らないのと同じように、血管も高血糖にさらされ続けると、元には戻りにくくなります。

①腎症

慢性腎不全によって人工透析を始める人は年間30万人を超えていますが、そのうち約44%は糖尿病性腎症が原因となっています。糖尿病性腎症で人工透析を始めた人の寿命は、それ以外の腎機能障害が進行して人工透析を始めた人よりも、年齢によって違いはあるものの5年ほども短くなっています。
 一般の腎臓病は血液を濾過する糸球体が徐々に侵されていくのに対して、糖尿病性腎症は細小血管だけでなく、糸球体も全体的に侵されるために合併症の進行が早くなります。

②網膜症

 糖尿病性網膜症では亡くなることは少ないものの、1年間に新たに約3000人が視覚障害になり、障害者手帳を交付されています。この多くは失明にまでいたっています。失明のほとんどは網膜剥離によるものです。目は多くの酸素を必要としますが、血管がもろくなると運ばれる酸素量が少なくなります。そのため新しい血管を作り出しますが、この血管は弱く、ショックを受けたときに網膜ごと剥がれ落ちることがあります。

③神経障害

 神経障害は、合併症の中では比較的早く現れやすく、細小血管が傷んで神経細胞に血液が充分に送られなくなることから起こります。知覚神経の感覚が鈍くなっていると、足にできた傷が気づかないうちに悪化して壊疽(壊死を起こして部分的に腐っていく)となり、足の指や足の切断までいたる人も多くなっています。壊死になるのは糖尿病によって免疫力が低下していくことも関係しています。
 神経障害は知覚神経だけでなく、自律神経にも起こり、体温の調整が乱れ、ホルモン分泌に悪影響が出ることにもなります。

④動脈硬化

 さらに高血糖状態が続くと、大きな血管が傷む動脈硬化へと進み、心臓疾患や脳血管疾患の障害の危険性も高まります。糖尿病患者は一般の人に比べて2倍以上も動脈硬化になりやすい傾向があります。

⑤免疫低下

 高血糖状態では赤血球の色素であるヘモグロビンとブドウ糖が多く結びついていきますが、このときに活性酸素が多く発生することが確認されています。活性酸素は血管壁を傷つけるとともに、血液中のコレステロールを酸化させて動脈硬化を進めていく要因となります。
 そのため、糖尿病では、血糖値を下げると同時に、抗酸化成分を摂ることも大切となります。抗酸化成分には、ビタミン類、植物の色素のほか、サプリメント素材のアスタキサンチン、イチョウ葉エキス、ウコン、コエンザイムQ10などがあります。
 糖尿病になると血液中のブドウ糖濃度が高くなり、赤血球がブドウ糖によってベタついたり、赤血球同士がくっついた状態になって血流が悪くなります。そのために血液中の免疫細胞(白血球、リンパ球)の流れも悪くなり、免疫力が低下していくことになります。これも影響して糖尿病患者の10人に1人が感染症で亡くなっています。
 日本人の平均寿命は女性が約86歳、男性が約80歳となっていますが、糖尿病患者の平均寿命は男女ともに10~12歳も短くなっています。それだけ糖尿病は血管を傷つけ、
全身に影響が出やすい病気だということがわかります。

5.糖尿病と高血圧の関係

糖尿病の合併症は血管が傷むことによって起こりやすいだけに、血管にダメージを与える他の要因が加わることによって、合併症が起こりやすくなることが指摘されています。
 最も合併症に影響を与えているのは血圧です。糖尿病によって血管の弾力性が低下してくると、血流を確保するために心臓の圧力が高まり、高血圧になりやすくなります。このことが動脈硬化の危険性を高めています。
 国民健康・栄養調査(平成22年)によると、高血圧患者(高血圧症有病者)は男性の60.0%、女性の44.6%と、生活習慣病の中でトップの数となっています。
 血圧の抑制目安である降圧目標値を見ると、糖尿病の合併症がある人の場合には、拡張期血圧は130mmHg、収縮期血圧は80 mmHgと『高血圧の治療ガイドライン2014』では、過去に比べて最も低く設定されています。
 糖尿病になると高血圧になりやすいだけではなく、両方の病気が重なることで動脈硬化が進みやすくなることが指摘されています。
 心臓病のリスクは、健康な人の危険度を1とした場合に、肥満、高血圧、高血糖、高トリグリセライド(中性脂肪)血症の危険因子の1つがある場合には5.14倍、2つある場合は5.76倍、3つから4つを併せ持つ場合には35.80倍にもなることが知られています。

糖尿病の人が高血圧になる理由

①循環血液量が増える

 血糖値が高い状態では体内の細胞の浸透圧が高くなり、水分が細胞内から細胞外に出てきたり、腎臓から吸収される水分の量が増えるようになります。その結果、血管の中を循環する血液の量が増えて、血管を圧迫して、血圧が上昇します。

②インスリン抵抗性がある

 糖尿病の人はインスリン抵抗性があります。インスリン抵抗性は、インスリンの作用を受ける細胞の感受性が低下している状態のことで、この状態ではブドウ糖が筋肉細胞に多く取り込まれず、血液中で多くなったブドウ糖が尿と一緒に排泄されるようになります。
 インスリンが効きにくくなると、それを補うためにインスリンが膵臓から大量に分泌されるようになり、高インスリン血症となります。高インスリン血症では、交感神経の働きが盛んになり、腎臓でナトリウムが排泄されにくくなるために、血管の細胞の成長が促進されて血管の壁が厚くなっていきます。そのため、血管が拡張しにくくなり、血圧が上昇します。

③糖尿病性腎症

 糖尿病性腎症では、腎臓の細くて弱い細小血管である糸球体がもろくなっていくために、充分に濾過ができなくなり、体内の有害物質が多くなっていきます。糖尿病性腎症になると、腎臓から血圧を上昇させるホルモンが多く分泌されるようになり、血圧が上昇します。

④肥満

 糖尿病患者の約60%が肥満となっています。糖尿病の人は半数が高血圧になるリスクがあるとも言われています。内臓脂肪が多く蓄積されると、脂肪細胞からアンジオテンシノーゲンという血圧を上昇させるアンジオテンシンⅡのもとの物質が盛んに放出されます。また、アンジオテンシンⅡはインスリンの作用を抑制したり、膵臓を障害してインスリン分泌を低下させる作用があるため、肥満によって糖尿病が発症しやすくなります。

6.血糖改善の食事のポイント

 血糖値が高いと指摘された人は血糖値を下げるために、食事の改善が求められます。糖尿病の治療では薬剤による治療も行われますが、食事が改善されなければ運動も薬剤も効果を上げることはできないため、糖尿病治療は食事の改善が基本となります。
 高血糖状態を予防し、改善するためには食事に関して以下のポイントがあげられます。

1)大切なエネルギーの摂取

 血糖値はブドウ糖の増加によって高まっていくため、食事の改善ではブドウ糖が含まれた糖質を減らせばよいように感じるかもしれません。しかし、血糖値を下げるには糖質を減らすだけでなく、適正なエネルギー量を確保するとともに、三大エネルギー源のバランス(エネルギー比率)が基本となります。
 血糖値を下げるためには、代謝を高めることが大切であり、体を正常に働かせるためにエネルギーとなりやすい糖質が必要となります。三大エネルギー源をバランスよく摂るには、糖質が50~60%、脂質が20~30%、たんぱく質が15~20%の割合となるようにします。
 1日に必要な摂取エネルギー量は体重、活動量、血糖値、肥満度、年齢、性別、合併症の有無などによって異なりますが、一般には健常者よりも10~20%減らした腹八分目が目安とされます。また、体重1kgあたり30kcalを目安にする方法もあり、体重が50kgなら1500kcal(30kcal×50kg)となります。

2)良質なたんぱく質の摂取

 糖尿病の合併症を予防するためには、血管を傷めないようにすると同時に、傷んだ血管の修復を進めるために、良質なたんぱく質が必要となります。良質なたんぱく質とは、たんぱく質を構成するアミノ酸のバランスがよく、必要な量が摂取できるもので、これに該当する食品として肉、魚、卵、牛乳、大豆・大豆製品(納豆、豆腐)などがあげられます。たんぱく質の量は標準体重1kgあたり1.0~1.2gとすることが推奨されています。

3)ビタミンとミネラルの充分な摂取

 ビタミンとミネラルはエネルギー代謝を促進して血糖値を下げる役目をすると同時に、血管の再生を進めるためにも大切なものです。ブドウ糖の代謝に特に必要なのはビタミンB₁で、これは豚肉、うなぎ、魚介類、豆類、そばなどに豊富に含まれています。ビタミン、ミネラルを充分に摂るためには緑黄色野菜をはじめとした多くの食品を摂るようにして、肉類、乳製品、海藻も欠かさないようにします。

4)色の濃い食品の摂取

 緑黄色野菜などの色の濃い食品には色素が豊富に含まれていますが、色素は活性酸素を消去する作用がある抗酸化成分となっています。糖尿病では活性酸素が発生しやすく、活性酸素は動脈硬化などの血管を傷める要因にもなっているため、できるだけ色鮮やかな野菜、果物、サプリメント(ポリフェノール、フラボノイドなど)を摂るようにします。

5)食塩の制限

 食塩に含まれるナトリウムは血圧を上昇させて血管を傷めやすいうえに、塩分が強い食事は食欲を高めることから食塩の摂取量を減らすようにします。一般の人では1日10g以下を目標にしますが、高血圧の人の場合には6g以下に制限されます。

6)食物繊維の充分な摂取

 食物繊維は、糖質が胃で消化されるのにかかる時間を長くし、ブドウ糖が小腸から吸収されるのを遅らせる作用があるため、血糖値が上昇しにくくなります。食物繊維が豊富な野菜を1日に350g以上を摂り、水溶性食物繊維であるキノコ、海藻なども充分に摂るようにします。水溶性食物繊維は水分を吸収して膨らみ、満腹感が得やすいうえに、余分に摂った糖質や脂肪の一部を包み込んで吸収を妨げる作用もあります。

7)アルコールの制限

 糖尿病の場合には、アルコール飲料は原則として禁止されます。その理由は、エネルギー量が1gあたり約7kcalと高く、吸収されやすいので血糖値が上昇しやすいことに加えて、食欲が進むために食べすぎの原因にもなるからです。
 血糖値があまり高くない人の場合には、条件つきで1日に160kcalほどの飲酒が許されることもあります。その量はビールならコップ(180cc)に1杯半、日本酒ならコップに3分の2ほどです。飲酒で摂るエネルギーは、ご飯を減らすといったように摂取エネルギー量の調整をする必要があります。
 飲酒の条件は、「体重が標準体重以下であること」「肝臓病や膵臓病、合併症がないこと」「ビタミン、ミネラルが充分に摂れていること」「決められた飲酒量で止められる意志があること」。これらの条件がすべてかなえられている人にのみ飲酒が許可されます。少ない量では物足らないという場合には、数日分をためておいて飲むという方法もありますが、一度に多飲するのは避けます。飲酒は血糖値を急に上昇させやすいだけに、できれば控えるようにしたいものです。

8)甘いものの制限

 菓子類や清涼飲料には、砂糖が多く含まれていて血糖値が上昇しやすいので、控えるようにします。清涼飲料は冷えていると甘さを感じにくいものの、常温で飲むとかなり甘く、砂糖が多く含まれていることがわかります。飲料では、糖質が特に吸収されやすくなっているので、注意が必要です。

9)規則正しい食生活

 一度食事を抜くと、その次の食事は空腹感を満たすために食べる量が多くなり、食べすぎになるため、血糖値も上がりやすくなります。三食を規則正しく取り、三食が同じような分量になるようにします。理想の三食のバランスは朝食3:昼食3:夕食4の割合とされます。早食いは食べすぎの原因となります。血糖値が上がり、脳が満腹を感じて食欲にストップがかかるまでには食事を始めてから15分ほどはかかるため、それよりも短い時間で食べると満腹感を得にくく、食べすぎることになります。よく噛んで、ゆっくりと食事をして、急に血糖値を上昇させないことが大切です。

7.血糖対策サプリメント

1)ブドウ糖分解抑制

 消化酵素のα-グルコシダーゼやα‐アミラーゼの働きを阻害する作用があり、糖質がブドウ糖に分解されるのを抑制します。
○ブドウ糖分解抑制作用のある素材
 アロエ/ウチワサボテン/グァバ/桑の葉/菊イモ/コタラヒム/サラシア
 白インゲン豆/豆鼓エキス/ニガウリ/羅漢果エキス

2)ブドウ糖吸収抑制

 ブドウ糖が胃から小腸に早く運ばれると吸収も早くなり、血糖値が大きく上昇しますが、粘性のある食物繊維が胃の中にあるとブドウ糖が小腸に運ばれるまでに時間がかかり、血糖値の上昇が抑えられます。また、粘性のある食物繊維はブドウ糖の一部を吸着して吸収されなくなることによっても血糖値の上昇が抑制されます。(シクロデキストリン/難消化性デキストリン)
 小腸からブドウ糖が吸収されるときには、腸壁にある酵素が作用しますが、その酵素に結びつくことでブドウ糖の吸収が抑制されます。(ギムネマ)
○ブドウ糖吸収抑制作用のある素材
 シクロデキストリン/難消化性デキストリン/ギムネマ

3)ブドウ糖燃焼促進

 インスリンによって筋肉細胞内にブドウ糖が取り込まれますが、それを促進し、ブドウ糖の燃焼を促進させます。
○ブドウ糖燃焼促進作用のある素材
 クエン酸/クロム/ビタミンB₁/ヤーコン

4)グリコーゲン生成促進

 ヒドロキシクエン酸によってブドウ糖からグリコーゲンへの生成量を高め、肝臓でのグリコーゲン蓄積量を増やして、血糖値の上昇を抑制します。
○グリコーゲン生成促進作用のある素材
 ガルシニア

5)インスリン分泌促進

 膵臓を刺激してインスリンの分泌を促すことで血糖値の上昇を抑制します。
○インスリン分泌促進作用のある素材
 アメリカジンセン/カイアポイモ/クロム/バナジウム/バナバ

6)乳酸分解促進

 筋肉疲労は、疲労物質の乳酸が蓄積されることによっても起こります。乳酸は身体を動かしてエネルギーが消費されるときに発生います。通常では乳酸はエネルギー物質に変化するか排泄されますが、大量に発生すると体内に蓄積され、疲労感や痛みを生じさせるとともに筋肉の動きを低下させます。
 エネルギー代謝を盛んにすることで、乳酸の発生量を減らすことができます。細胞のミトコンドリア内でエネルギーを産生するTCA回路はクエン酸回路とも呼ばれ、クエン酸を摂ることでTCA回路のエネルギー産生を高めることができます。TCA回路ではブドウ糖は酵素の働きによってさまざまな酸に変化してTCA回路を働かせますが、その変化にはビタミンB群が必要となります。
○乳酸分解作用のある素材
 エゾウコギ/クエン酸/ニンニク/ビタミンB₁/ビタミンB₂/ビタミンB₆
 ビタミンB₁₂