摂取するカルシウムが不足すると、血液中のカルシウム濃度が高くなり、さまざまな弊害が起こることを「カルシウム・パラドックス」といいます。普通に考えれば、食品から摂るカルシウムが不足すると、血液中のカルシウム濃度が低下するはずです。しかし、逆にカルシウム濃度が一時的に、そして一気に高くなってしまいます。体の中にはカルシウム濃度を調整する機能があり、摂取するカルシウムが減ると、カルシウム濃度を一定に保とうとして、骨に蓄えられているカルシウムを分解して血液中に放出します。
逆に、食事によるカルシウムの摂取量が増えても余分となったものは骨の中に蓄積されるので、カルシウム濃度が高くなることはありません。カルシウムの摂取が足りなくなるほど、血液中の濃度を保つために多くのカルシウムが骨から分解され、血液中に放出されます。
その結果として、一時的にカルシウム濃度が高くなり、血管の細胞に多くのカルシウムが浸透して動脈硬化の原因にもなります。
カルシウム濃度の調整をしているのは副甲状腺ホルモンです。副甲状腺ホルモンには、脂肪細胞にカルシウムを多く取り込ませるようにさせる働きもあり、副甲状腺ホルモンが多く分泌されるほど脂肪細胞の中に取り込まれるカルシウムが多くなっていきます。
カルシウムが多くなると脂肪細胞の中では、脂肪酸合成酵素が多く作られるように働きかけます。これは、脂肪細胞の中にカルシウムが多いことは正常な状態ではないので、カルシウムを脂肪細胞の中から追い出すために、脂肪細胞の中に入る中性脂肪を増やすために起こっていること、と説明されています。
脂肪酸合成酵素が多く作られた結果、肝臓の中で糖質、脂質、たんぱく質を材料として脂肪酸が作り出されます。この脂肪酸3つとグリセロール1つが結合したものが中性脂肪(トリグリセライド)となりますが、脂肪酸が多く合成されることで、中性脂肪の合成量も増えていきます。これによって、通常の食事で糖質、脂質、たんぱく質を摂ったときよりも、多くの中性脂肪が作られるようになります。その作られた中性脂肪として脂肪細胞の中に蓄えられていくことになります。
カルシウムの摂取量が多ければ、副甲状腺ホルモンが多く分泌されることもなく、脂肪酸合成酵素が増えることもなく、中性脂肪が多く蓄積されるようなこともなくなります。だから、カルシウムを多く摂ることでダイエットできる、というのがカルシウムでやせることをすすめている専門家の主張です。そのメカニズムは認めるところですが、これは正常な機能になっているということで、積極的にダイエットできるという証明には、これだけの説明では不十分かもしれません。
それを補っているのはプラスのダイエット効果となっているのが胆汁酸の働きを抑える機能です。胆汁酸は肝臓の中に蓄積されているコレステロールを材料に作られ、十二指腸から分泌されて、脂肪を分解する働きがあります。胆汁酸が多く分泌されるほど脂肪が多く分解されてエネルギーとなっていきますが、エネルギーとして使われなかった脂肪は肝臓で中性脂肪に合成されて脂肪細胞に蓄積されていきます。胆汁酸が十二指腸で分泌されたときに、そこにカルシウムが多くあると胆汁酸はカルシウムと反応して石鹸化が起こります。変化した胆汁酸は、胆汁酸の働きをしなくなるので、その変化した分だけ脂肪が分解されなくなり、脂肪細胞に蓄積される脂肪が少なくなるというわけです。
肉類には脂肪とともにカルシウムも多く含まれています。肉食が多い欧米人はカルシウムも多く摂っているので、胆汁酸が分泌されてもカルシウムによって一部が変化して働きが抑えられるので、脂肪の害が少なくなります。日本人は脂肪の摂取が少なくても、カルシウムの摂取量が少なくなっているので、胆汁酸の働きが抑えられにくく、脂肪をエネルギー源として取り込みやすくなっているのです。