063 なぜ脂肪はおいしく感じるのか

脂肪はおいしいから食べすぎる、というのは栄養の世界では定説となっています。これは本当のことなのかというので、豚肉の脂身だけを切り出したものとバターを用意して、これだけを大学生のボランティアに食べてもらう実験をしたことがあります。脂肪がおいしいというなら、どこまで食べられるかの限界を知るための実験でした。脂肪もバターも100gずつ用意したのですが、肉なら300gでも500gでも食べられるという人が、なんとか脂肪100gはクリアしたものの200gでは途中ギブアップでした。バターは100gでもリタイアが続きました。ギブアップ、リタイアの理由を聞くと、最も多かったのは「おいしくはないから」。
おいしいのは脂肪そのものではなくて、脂肪が含まれた食べ物だったのです。脂肪はエネルギー量が1g当たり約9kcalで、糖質もたんぱく質も約4kcalなので脂肪は高エネルギーです。私たちの身体は、飢餓に耐えられるようにできていて、少しでもエネルギー源としての脂肪を脂肪細胞の中に蓄積しようとします。そして、エネルギー量が高い脂肪を多く食べられるように、脂肪が多く含まれた食べ物をおいしく感じるように進化してきました。
脂肪を蓄積するためには膵臓から分泌されるホルモンのインスリンが必要で、糖質に含まれるブドウ糖が多く身体に入ってくると血糖値が上昇してインスリンが多く分泌されるようになっています。そのため、脂肪と糖の両方が含まれているものを食べると、しっかりと脂肪を蓄積することができるということです。
また、血糖値が高い状態が長く続くと、エネルギーが充分にあることから脂肪細胞の中の中性脂肪が分解されにくくなり、やせにくくなります。脂肪と糖の組み合わせは最強の脂肪蓄積の食べ物であり、ダイエットのためには最悪の組み合わせということになるわけです。