健康について語るときに、体質ほど便利な言葉はありません。身体が冷える、疲れやすい、風邪をひきやすいといった日常的な反応は、誰にも起こり得ることです。内臓の障害や感染など原因が明らかであれば、わざわざ体質という言葉を使うこともなく対応できるものの、明らかな原因が判明していないときに、これを医学的に詳細に説明することは非常に難しいこととされます。
身体が冷えるという訴えを聞いても、その原因が血液の温度の低さによるものなのか、血流が低下しているためか、食事の量や内容に関係することなのか、それとも運動不足や自律神経の働きなのか、病気が原因となっているためなのか、なかなか原因はわかりにくいものです。血液検査などの西洋医学の検査によって調べられることであれば原因を突き止めることは容易であっても、自覚症状があるのに検査をしても原因が判明できないという東洋医学でよくあげられる症状は、西洋医学の世界でも案外と多くみられることです。
検査によって数値の異常が発見されても自覚症状がないのは生活習慣病ではよくみられることです。生活習慣病の診断基準とされる血圧、血糖値、中性脂肪値、LDLコレステロール値は、いずれも基準値を超えて高血圧、糖尿病、脂質異常症と診断されても、初期段階ではほとんど自覚症状は現れません。そのため、検査が重要であり、早期に発見して早期に治療を行うことで重症の段階に進めないようにすることができます。
これとは逆に自覚症状があっても検査で原因がわからないことがあり、これは東洋医学でいう未病の状態とされ、食事の改善や漢方薬、鍼灸、気功などでの改善も期待されています。東洋医学では身体の反応を証(しょう)という分類で診断をして、その診断に合った改善法を指導しています。例えば、身体が冷える証の人には温めるための改善法が指導され、逆に身体が熱すぎる証の人には冷やすための改善法が指導されています。ただ、温めたり、冷やせばよいということではなく、その中間である中庸の状態にすることを東洋医学では目指しています。身体によいとされる方法であっても、冷える証の人にとっては身体を冷やすような改善法は健康の維持にとってはマイナスになることであり、体温が上昇しやすい証の人にとっては温める改善法は体を傷める原因になるという考えです。
西洋医学では検査によって病名を特定して、それに対する治療が行われることを原則としています。検査をしても自覚症状の原因がわからないということでは治療することができず、疑われる原因を推定して医薬品を使い、「とりあえず様子をみましょう」という医師にとって便利な言い回しがされることがよくあります。
このように原因もわからず、改善法もわからないことに対しても、患者や家族から原因を聞かれることがあります。それに対して便利に使われているのが体質という言葉というわけです。体質という言葉を医師から言われると、不安を感じつつも、なんとなく納得して、言われるままの改善法を受け入れて、重要なこととは感じないという人も少なくないかもしれません。しかし、体質の問題の多くは生命を維持するために重要な細胞の中の働きによって起こっています。体質の原因が何から起こっているのかを知れば、簡単に受け流すというわけにはいかないことがわかってきます。
体質は、身体の性質を指す言葉で、遺伝的な素因と環境的な素因の相互作用によって形成されると考えられています。もともと冷えやすい体質であるので、冷えるのは仕方がない、少しでも冷えが軽くなることをやってみるという様子をみるようなことではなく、体質の根本を考える必要があります。
たまたま使った医薬品によって冷えの症状が改善したら、その医薬品を使い続けるということもよく見受けることです。しかし、根本的な改善を行わない限りは、身体をよい方向に導くことはできないと考えられています。今は症状が改善の方向に向かっていたとしても、年齢を重ねるにつれて恒常性維持(ホメオスタシス)の能力は低下していきます。ホメオスタシスは自然治癒力と表現されることもありますが、この身体に変化が起こったときに元の状態に戻そうとする能力が低下すると、体質として現れている不調な状態が徐々に改善されにくくなっていきます。
体質の改善というと、まずは食事の見直し、運動の実践、休養の確保が言われます。この当たり前のことをして改善される人は状態が軽いものと判断されがちですが、状態が軽い人と、そうではない人との違いを解明するための研究に私たちは取り組んできて、一定の成果をみることができました。
その研究成果の一端をわかりやすく多くの方々に伝えようというのが私たちの願いであるが、私たちは長年研究を重ねてきたのは細胞のミトコンドリアで常に行われているエネルギー産生を促進するために欠かせないα‐リポ酸、L‐カルニチン、コエンザイムQ10の3種類の成分です。これらの三大ヒトケミカルの不足が生命維持に必要なエネルギー物質を減らすことから細胞本来の働きが低下して、さまざまな体質の問題点を引き起こすことを突き止めることができました。