日本人の長寿を支えた食事の変化は、副菜などだけではありません。主食も、ご飯中心からパン、麺類の割合が増えていきましたが、ご飯中心の食生活が日本人の健康を支えるバックボーンとなってきた事実があります。これを表すのが「口中調味」という食べ方です。
日本人の食べ方はヨーロッパの伝統的な食事のマナーからすると、マナー違反に当たります。ヨーロッパの食事は、前菜、スープ、メイン料理、デザートといったように、全員が同じ味付けのものを食べています。家庭料理においても、それは同じことです。
それに対して、日本食の食べ方は、初めに口をつけるのは、汁物、ご飯、おかずと違いはあっても、おかずの味が濃ければ、ご飯を口の中に入れ、味が薄くなったら味噌汁を追加するといったように、異なった味のものを混ぜ合わせながら味を調えて食べています。
こういった食べ方をしているので、汗をかいたあとや多くの量を食べたいときには口の中での味を濃くして、逆に疲れているときには薄味にするといった調整ができるようになります。この味のトレーニングを重ねてきたことで、年齢が進むにつれて、体の変化に合わせて、徐々に薄味の傾向にしていったり、淡白な味の日本食へと切り換えていくことができるようになります。欧米の場合には青年期の食傾向が変えられず、高齢者になっても肉食中心の食事を引きずっています。「高齢者でも朝からステーキ」というのは実際に見られることです。
ご飯が食傾向を変えられる力となっているといっても、米食が多い中国や韓国などを見てみると、日本人のように年齢によって食傾向を変えていけず、やはり青年期の食傾向が続いています。その理由となっているのは、ご飯の調理法の違いにあります。日本のご飯は炊くという調理法ですが、これは煮て、蒸して、焼くという段階を経ています。それに対して大陸では煮るか蒸すか炒めるかという方法で、これは水質が関係しています。
日本の水は地域によって差はあるものの、基本的にはカルシウムとマグネシウムの含有量が少ない軟水です。大陸では含有量が多い硬水であるため、普通に炊くと芯が残ってしまいます。これはカルシウムとマグネシウムが米に染み込むために、水分と熱が中に伝わりにくくなるためです。そのために煮る、蒸す、炒めるという調理法で芯を残さないようにしているのですが、これらの調理法だと、おいしく食べるためには味付けが必要になります。ご飯に味がつくと、それに合うおかずの種類が限られてきます。
主食がパン類や麺類になると、もっと種類が限られてきます。そんなことはない、と言う人には試しにパンで塩辛を食べてもらっていますが、ご飯のお供として大好きな人でもパンで食べるのはつらいものがあります。