「三」8 オトナの“三段活用”

三段活用は語尾が同じ行の三段にわたって変化する活用のことで、文法の基本のようなものです。今回の「三」に関わる話には「オトナの」とついているように、世の中を生き抜いていく処世術の一つとしての言葉づかいのことを指しています。

謝るときの三段活用といえば、「ごめん」「ごめんなさい」「本当にごめんなさい」というのが一般的な使い方です。

何かをやってほしいときには、「やれ」「やってくれ」では命令口調に感じられるので、「やってほしい」「してください」が使われることが多いのですが、それでも口調によっては命令や押しつけにも感じられてしまいます。

丁寧な言い方になると、「していただけると助かります」「していただけると嬉しいです」「していただけると幸いです」という三段活用になるわけですが、先に進むほど他人行儀な感じが強くなって、かえって付き合いにくい雰囲気になってしまいます。

どれを使うかは、お互いの立場や関係性などによっても違ってきます。

日本人が最も好きな言葉とされる「ありがとう」も三段活用があって、「ありがとう」「ありがとうございます」「恐れ入ります」が通常のランクとなります。

これが他人行儀な三段活用になると、「恐縮です」「恐縮至極です」「痛み入ります」となって、これは使う機会が少ないだけでなくて、言われたほうが、それこそ恐縮してしまう言葉となります。

こういった三段活用なら地域性はないので、多くの人は同じ感覚で聞くことができるのですが、関西の「知らん」の五段活用となると、意味することが理解できていないと、とんだ勘違いをすることにもなります。

その五段活用は「知らんけど」「知らんがな」「知らんし」「知らんわ」「知らん」で、「知らんけど」は確信がなくて責任が持てないときの言葉です。「知らんがな」は関係ない、興味がないときに使われます。「知らんし」は、どうでもいいというときに使われ、「知らんわ」は自分も知らないとき、「知らん」は本当に知らないときに使われます。

このほかに「知らんがな」と「知らんし」の間に「知らんねん」(知らなくて申し訳ない)が入った六段活用もあるとのことですが、これは断定を避けて、責任回避をする関西特有の言い回しです。
〔日本メディカルダイエット支援機構 理事長:小林正人〕